第5話 第1章 異世界到着 1

「知らない夜空だ……」 

 いや、本当に月の大きさが違う。 多分、星座の位置も違うのだろうが、はっきりとはわからない。 だが月の光が明るく、暗いと言う感じはしない。

 まだ頭の働きが覚醒してないが大地に横たわってる体を起こしつつ周りを見渡してみと、草原に転移したようだ。 風で草花が揺れてはいるが生物が動いているような不自然な動きや音は感じられない。

 取り合えず転移直後に敵対生物と鉢合わせといったハードモードではなく、南井爺ちゃんは安全な場所に転移させてくれたようだ。


 爺ちゃん、ありがとうございます。 と、心で再度お礼を述べ今後の方針を考え始める。 言葉が通じるとのことなので、まずは現地の人とと接触して情報を集めないとならない。 魔法世界とは言え、中世の村レベルでは情報は限られてるだろう。 だが、まずは人を探しつつ村か街の場所を聞き出すことから始めようか。


 さて、方針が決まれば行動だ。 と行きたいとこだが‥‥‥ 見渡す限りの草原だな! 右側遠くに森っぽいものが見え、左側には幽かに山のようなものが見える。 もちろん周辺に道らしきものは見えない。 どの方向に向かえばいいのだろうか‥‥‥  

 今は南井爺ちゃんにもらった服にズボンと靴を着込み、片手に巾着を持っている状態だ。 巾着から南スーツケース2つとリュックを取り出す。 まずはスーツケースから使う頻度の高いものを取り出しておこう。 そして大型リュックに詰め込んである食品類を数日分だけ残し、種類別にポリ袋に小分けして巾着にもどす。 使う頻度の低そうなものはスーツケースに残し、それも巾着に戻す。 使う頻度の多そうなものはリュックに入れてこれも巾着に戻しておく。

 方位磁針は正常に作動してるか分からないが、山の方角を北と示していることから一応機能はしていると判断できる。 南に森が見え、東西は見渡す限りの平原だな。 確かグランガイズの人間領は大陸の西側で大陸中心は亜人領となっていたはずだよな。 しかも西端の海側が栄えていると言う話だから、向かうは西だ! そうと決まれば即行動だ。

 

 俺は巾着を腰紐にくくりつけ、右手に短剣を左手に双眼鏡を周囲を警戒しながら持ち歩き始めた。 月明りのおかげで視界は良好で、草花も高くて30㎝ほどなので歩行の邪魔にはならない。

 いつしか鼻歌を歌い、寂しさを紛らわしながら歩いていると前方の草が不自然に揺れた。

   短剣を構え、慎重に揺れた草周辺を凝視する。 揺れた範囲と動きからすると小動物と思われる。 南井爺ちゃんの話では日本のファンタジー小説に出てくるような魔獣と呼ばれる生物は魔人領に生息していて亜人国までは出没するらしいが、人族の国には滅多に現れないとのことだったはず。

 剣の心得など全くないが素手よりは心強さは段違いだ。 少しの間、静寂が辺りをつつみこむ。 無為に時を過ごすのも意味がないので一歩踏む出す。 すると草の中から長い2本の耳が見えた。


「兎かぁ。 危険な獣じゃなくて良かった。」

 緊張でカラカラになった口から安堵の言葉が漏れる。 歩きやすいと思った道も草木が邪魔で実際歩いてみると結構疲れる。 そろそろ歩き始めて時間も経つし一旦休憩を取るべきだろう。 巾着からペットボトルと簡易食料バーとレジャー椅子を取り出し休憩に入った。

 ペットボトルの水を飲みながら少し考えに耽る。


 まず1つ目にこの国の大きさだ。 仮に日本と同じ大きさだとすると1日12時間歩いても50km程度だろう。 と、言うことは東京から鎌倉あたりまで歩ける範囲になる。 爺ちゃんにグランガイズとこの国の大きさを聞くのを忘れたのが痛いな。 人口は中世日本と同じ程度と聞いていたから、700~1300万人ってことは調べてある。 どの程度の距離でどの程度の規模の集落があるのだろう。 


 2つ目は地球と1日の長さが同じかどうかだ。 まぁ、これは丸24時間経過すれば分かることなんだが。 日本と同じなら日の出は5時前後だったはず。 あと2時間で明けてくれればよいのだけどな。 明けるよな? ずっと夜ってことはないよな⁈


 3つ目は魔法が使えるとのことなので、歩きながら色々試してみたが全く発動する気配なかった。 発動条件があるのだろうか。 まさか触媒がいるような面倒な世界ではないことを祈ろう。


 簡易食料バーも食べ終わり、水も飲み切ったのでゴミをポリ袋に入れて椅子とともに巾着にしまうと西へ向かい歩を進める。 休憩から少し歩いた時に遠くに草が線状に途切れて見えるような場所があることに気づく。 これは、道を見つけれたのではないだろうか。 喜び勇んで歩を早めその場所へ進んでいく。 到着すると、そこには幅50cmほどの道だと思えるものが南東から北西に向かって伸びていた。


 これで歩きが大分楽になるな。 道があると言っても草を踏みつぶして地面が見える程度だが、人の行き来があると分かっただけで気分が高揚する。 時刻は3時を回ったとこだ。 さすがに異世界でもこのような時間にこのような場所を移動しているよなヤツは居ないだろうと思い、最近よく聞いていた歌を歌いながら北西へと歩を進める。

  1時間半ほど歩いた時に東の方角が少しづつ明るくなってきているのに気づく。 


 ふむ、日の出は東京と同じような時間なのだな。 日の入りも確認し、明日また同時刻に日の出があるなら地球と同じ24時間周期と判断できるかもしれないな。 しかしの地平線での日の出を拝めるなんて都会暮らしの俺には感動すら覚える。 太陽が顔を出すのを見ながら、少しの間惚けていたが気を取り直し道を進むことにした。

 日の出から1時間ほど歩いていると、前方から土煙をあげながら凄い速度でこちらに向かってくる物体が見えたので、俺は急いで双眼鏡を覗き込んだ。 どうやら人間の男のようだ。 スクーター並みの速度でこちらに向かって爆進してくる。 俺は双眼鏡を巾着に入れて短剣も腰の鞘に戻して敵意の無いように心がけるようにした。 あんな速度で走る人間と戦って勝てる気が全くしなかったからだ。

 爆速で走ってくる人物は俺の少し手前で立ち止まり訝し気に俺に向かって声をかけてきた。


「おっちゃん。 ここらでは見かけない顔だけど、この先にはおいらが住む村しかないんだが何か用なんか?」

 10歳前後と思われる少年‥‥  もう、ガキでいいや。  言うに事欠いて俺のことをおっちゃんだと!? おれはまだ20代だぞ! いや、俺、冷静になれ。 見かけはガキでもあの速度で走れるだけの運動能力があるのだ。

 俺は少し引きずった笑顔で答える。


「道に迷ってるんだよ。 どこかであたまを打ったらしく記憶が無くなってしまってるようなんだ。 自分が何者で何処へ向かってるのかも分からいんだよ。(嘘)」

「へぇ~ うちの村の長老もボケて段々と物忘れが酷くなってるけど、それと似たような感じかぁ~」

 全然違うが説明するのも面倒だし合わせておこう。

「そんな感じだな。この先には村があると言うことだけど、どれくらいの距離なのかな?」

 ガキは少し考えたのちに


「えっと、走って2/6刻ってとこかな?」

 うわ、分からねぇ。 が、想像はできる。


「太陽が昇って、次の太陽が昇るのは何刻だい?」 

「24だよ。1刻を更に1/6で分けて言うんだ。」


と言うことは、グランガイズまたはこの少年が住む村では10分単位で時刻を数えるのだな。 だが、意外と言えば意外だ。 どうやって時刻を判断してるのだろうか。


「少年。 どうやって時間を判断してるんだい?」


 するとガキは肩に掛けていたカバンから砂時計のようなものを取り出して俺に向かって突き出しながら


「おっちゃん魔道時計も知らないんだ。 これがあるとどこでも時間が分かるんだよ。 街の道具屋で安く売ってるから買ったらいいよ。」 と見せてくれた。


 砂時計の砂が6色に分かれていて、横に向けても逆さにしても一定歩行に砂が流れていく。 砂時計の上下に1~12の文字が輪っか状に書いてあり、現在は6の数字のところまで砂が入ってある。

ガラスの中の砂は2色目が流れ始めたとこだ。 つまり、6時10分だな。 村まで20分ってことか。 しかしよくよく考えてみると、あの速度で20分だぞ!   時速で50~60kmは出てたよな‥‥ 徒歩だと15倍計算で5~6時間かよ。 一応行先も聞いておこうか。

「少年よ、何処へ向かってるのかな?」

「んとね、街だよ。 おっちゃん街から来たんじゃねぇ~のか?」

 ガキは不思議そうに聞き返してきた。

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