第8話 あの三人が負けるところなんて想像できなくない?

 


「進めーーー!!! 正義は我らにありっ!!」



 う、うわああ。

 ガチの内乱じゃねーかよ。


 オレはドン引きしつつ目下に広がる戦いを見ていた。


 リンダルさんとエドさんとは国に入る前に別れた。

 その二人が扇動せんどうしている部隊が城を囲み攻め込んでいるのだ。



 反乱軍は余裕しゃくしゃくと次々に城の警備を突破していく。


 オレ達はそれを時計塔の頂上から見下ろす。



「んっふふ。よい頃合いじゃなぁ」


 隣でティアが至極楽しそうに笑った。


 今オレ達五人はそろいの外套がいとうを深く被っているのでお互いの表情もよくわからない。

 だが、楽しそうというのはわかる。


 やはり魔王は好戦的なのだな。

 それにしてもティアのやつ、ちゃんと目的分かってるだろうな?


「遊びじゃないんだからねぇ? ちゃんとしてよぉ」

「分かっておるわ」


 アレクがティアに注意をしている。

 オレと同じ不安を抱いたのだろう。


「城ごと吹っ飛ばすとかも駄目だからねぇ?」

「だから分かっておると言うに」


 こんな時でもいがみ合いは続くようだ。


 魔王と勇者というのはそういう星の下に生まれてくるものなのだろう。

 深くは追及しないようにしよう。



「まあまあ、二人とも。そろそろオレ達も動かないといけないんだからそこまでにしてね?」


 二人は渋々ながら静かになった。

 その露骨さに苦笑いが出る。


「じゃあ行こうか」



 オレ達は静かに動き出す。




 バタバタと走り去る兵士たち。

 そこに突っ込む反乱軍の兵。


 その間を縫って進む。


 城の正面まで来た。


 反乱軍がかく乱してくれているとはいえ、まだ兵士の数が多そうだ。



「リューナさん」

「ええ」


 リューナさんは一人で門前へと躍り出る。


「こんにちは皆さま。そこを開けていただきますわよ」

「何者だっ!!」


 城兵が槍を向けるも、リューナさんは素早く歌いだす。


「――。――」


 数秒もしないうちに外に出てきていた兵たちは横に並び門を開けた。



 何というか、本当に便利な能力だ。

 敵に回したくない。


 オレはそう感じた。




 オレ達は堂々と門から入る。

 奇襲に来たとは思えない入り方だ。


 敵もまさか正面から奇襲に来るとは思っていないだろう。




 城の中は思ったよりも人がいない。

 まあそりゃあ城の中よりも外を守らないといけないから、必然的に少なくなるとは思うけれども。


 だが今中にいるということは主の護衛などの強者たちだろう。


 ここから先はそう簡単に通れないのを覚悟せねば。



 リューナさんが歌い、声の届かなかった者をクローネちゃんとティアが蹴散らしていく。


 それだけで雑兵はいなくなった。


「よし、今のうちに……っ!」


 オレは前に出ようとして殺気を感じ、後ろへ飛び退いた。


 ――ガンッ


 次に聞こえたのは固いものが地面に突き刺さる音。


 オレが出ようとしていた場所には重たそうな斧が刺さっていた。




「はははは!! よくここまで入ってきたものだ!!」


 奥の闇の中からいかつい男が現れる。

 その手には斧につながっている鎖が握られていた。


 護衛隊長のような格好だ。


 男に続いて複数の男達が出てくる。



 ざわざわと集めり、その数十数人。



 ここを越えれば王座の間に入れるのにとんだ邪魔が入ったものだ。


 オレは男達の先にある重たそうな扉を見た。


 あと少しだというのに、こんなところで時間をとられてしまってはたまらない。



 オレは死者を召喚しようとした。


 それを楽しそうな声が引き留める。



「ふぅむ。少しは楽しめそうかの?」

「ティアお姉ちゃんの敵にはならなさそうですよ」

「そうですわね。ですが私も援護いたしましょう。ヴォン様、アレクシアさん。お先にどうぞ」


 リューナさんとクローネちゃん、ティアが前に出る。


「うむ。そういうことじゃ。そなたらは先に進むが良い」


 ポンと背中を押されて先へと促される。

 どうやら三人が引き受けてくれるようだ。


 まあ、この三人なら任せても大丈夫だろう。

 なんならオレより全然強いと思う。




「あ、ほんと? 助かるわ~」


 オレは微塵も迷わずに先に進む。


「ちょ、ちょっとぉ!? さすがに少しは心配した方がいいんじゃないのぉ?」


 そう言いながらも、アレクもオレに続いた。


「え? だってあの三人が負けるところなんて想像できなくない?」

「まあそうだけどぉ!」


 誤解のないように言っておくが、別に心配していないわけではない。

 ただあの三人が揃っていて負けるようなら一国で挑んでも駄目だろう。


 あの子たちはそれほどまでに強いのだ。


 だからオレはただ信じて進む。


 オレの歩んだ先に、スローライフがあることを願って。




 え? 目的が違うって?


 ははは、気のせい気のせい。

 オレは初めからそれしか目標にしていない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る