第7話 奇襲作戦

 


「それじゃあ最終確認ね!」



 四族同盟を結んだオレ達はキナコに乗って移動していた。

 魔族領からカノン王国までは歩けば1週間以上かかってしまうがキナコなら2日もあればつく。


 奇襲をするのなら早い方がいい。

 カノン王も追手はつけていたが、こんなにも早く打って出てくるとは思っていないだろう。



「まずエドさんとリンダルさんは反乱軍を統制して王城の回りをかく乱してほしい」


 既に反乱軍が作られているのなら、その人たちを統率して城の人手を分散させるのが良いだろう。


 王の警備が薄くなればその分こちらも動きやすくなる。



「オレたちは手薄になった城の中を一気に攻め入る。狙うのは王の首、ただ一つだ」


 王さえ打ち取ってしまえばこちらの勝ち。

 単純明快だ。



 え? 戦い方が卑怯だ?


 何を言っているんだ。戦いに卑怯もなにもない。

 勝った方が正義。

 いうなれば戦略勝ちだ。


 それにこれは向こうから一方的に仕掛けてきたこと。

 しかも奇襲で。


 ならばこちらも正々堂々と戦ってやる必要などありはしない。



「ゼノンの能力についてはリンダルさんから説明があった通り精神干渉系の能力だと思われる……ってことだけど、詳しいことは分からないんでしたよね?」


 オレはリンダルさんを見る。

 彼は静かに頷いた。


 精神干渉系かぁ……。

 また厄介な。


 彼の話と母さん(エルシオン)の話では共通して前王……つまりオレの祖父がゼノンを近くに置くようになってから徐々に人が変わっていったらしい。


 それまでは民にも優しく、知性の溢れる政治をしていた祖父がいきなり圧政を始めたのもそれが原因だと睨んでいるようだ。



 まあ怪しくはあるよね。

 だって、祖父がそうなることで一番得をしたのはゼノンだもんね。


 でも詳しいことが分からないとなると対処のしようがないな。


「精神干渉系の魔法が扱えるとなると、ゼノンとやらは精霊族の血を引いていそうですわね」


 リューナさんがぽつりとつぶやいた。


「どういうこと?」

「はい。精霊族は本来、他の種族との交わりを好みません。自然を愛する故に縛られることを好まないからです」


 それでも混血を行った者は多少いるらしい。


 そういえばリューナさんも混血の末裔だって言ってたもんね。

 彼女の場合その精霊の血が濃く出ているから力を使えるとか。


「精霊族の中には私のように声で人を操ることのできる者もいれば、幸福を招くことができる者、天候を操る者などもいます。基本的に自由気ままなんです」


 リューナさんは続ける。


「逆に病をはやらせたり、呪いを掛けたり、人を惑わせるものもいます。聞いている限りではゼノンの力はそれらに似ているかと」


 世の中いろんな奴がいるんだなぁ。


 オレはそんな感想しか出てこなかった。


「ゼノンってどんな顔してるの?」

「はい、私の顔をいかつくして髭を伸ばした感じです。身長は低めですな」


 リンダルさんが言った。


 オレの中で精霊要素とオッサン要素が掛け合わさり、小さいオッサンが完成した。


 前世でもたまに話題になった小さいオッサンだ。

 マグカップの中に入っていったとか言われているあのオッサン。


 そんなのが国王って……大丈夫かカノン王国。


「なるほど、オレは小さいオッサンを狙えばいいんだね……っふ」


 オレは一人で噴き出した。


 周りからなんだこいつみたいな顔をされた。


 いけない真面目に考えないと。



「じゃあその対策として、防御魔法をかけて挑もうか」

「はいなのですよ!!」


 クローネちゃんが一人一人に防御魔法をかける。

 薄い膜がオレ達の体を覆いなじんでいった。


 そんなことまでできるとは、流石は大聖女(未来)。


「状態異常なんかの魔法は弾くことができるけど、物理攻撃は弾けないのですよ。だから注意してくださいなのですよ!」

「十分だよ。ありがとう」


 オレはクローネちゃんの頭を撫でてやる。


 モフモフとして撫で心地がいいのだ。


「えへへ」


 クローネちゃんも気持ちがよさそうだ。




「あ、ヴォン。そろそろキナコをしまって歩かないとバレちゃう!」

「おっと。もうそんなところまで来ていたか」


 アレクの声で引き戻された。


 そうだった。今は奇襲作戦を成功させるのに集中しよう。



 前を向けば遠くの方にうっすらと街が見える。

 森を抜け切る前に降りておこう。


 気づかれたら奇襲など成功しないからな。



 もうすぐ、あの街で戦いがおきる。

 スローライフのために、頑張ろうではないか。



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