第6話 巻き込めるものは全部巻き込め
「さて、友達のヴォンよ。そなた魔王軍に入らぬとはいえ、いまだカノン王に追われている身。これからどうするというのじゃ?」
「そ、そうだよぉ! まだ何も解決していないよぉ」
オレの手を握りながら魔王様はそう言った。
これが彼女の思う友達の関係らしい。
聞けば何千年と生きているらしいが、友人というものが初めてらしくとっても初心な反応を見せてくれている。
ギャップ、すごいな。
まあそれはそれとして。
そうなんだよな。
スローライフをしたいって言っても今は狙われている身。
悠々自適な住処などあるわけがない。
となればとるべき行動は一択。
「そんなの決まっている。ゼノンとかいう王がオレを狙っているのなら打って出るのみ!」
そして根源を絶つ。
「それにどうせ持久戦になればこっちがじり貧になるのは目に見えているしね。奇襲を仕掛けるのがベストなんじゃないかな?」
オレは不敵に笑った。
「でもお兄ちゃん。圧倒的に人数が少ないと思うのですよ?」
クローネちゃんが心配そうにオレを見る。
その心配はごもっともだ。
「うん。その通りだよ? でも考えてみてほしい。今ここには最高の戦力がいるじゃないか! 数よりも質で勝負だ」
オレは魔王様を手で示す。
「な、なんじゃ!? 妾に戦えと申すか!?」
「ははは。そうでーす! ぜひとも一緒に戦ってほしいな~」
巻き込めるものは全部巻き込め。
これは前世で学んだ処世術の一つだ。
使えるものは使ってなんぼ。
オレはピエン顔で魔王様を見つめる。
「そなた……さっき妾の提案を断ったくせに」
「もちろんただでとは言いませんよ! オレの友人として一緒に戦ってくれるっていうのなら、新たな美食のレシピと風呂をご用意します!」
わざと「友人」の部分を強調する。
果たして初めての友人の頼みを断ることができるのか?
いいや、無理だろう(ゲス顔)。
それだけじゃない。
彼女は自分で美食家だと言っていた。
でも先ほどの料理の中には日本食がなかった。
近しいものもなかった。
単に今回の料理では出てこなかっただけという可能性もあるが、魔族領には日本食が浸透していない可能性が高い。
そうなれば、美食家だというこの魔王が新たな美食につられないわけがない。
それに風呂という目新しい特典までつけるのだ。
賭けではあったが勝算がないわけではないだろう。
「ダメかな~?」
再びオレはピエン顔で魔王様を見る。
「っぐ……。はあ、まあよい。友達の願いなら仕方あるまいて。さっさと終わらせて遊ぼうぞ」
「わあい! ありがとう魔王様……いや。ティア!」
オレは感謝と親しみを込めて名前で呼ぶことにした。
「んっふふ、名前呼びとは……やはりそなたは面白いのぉ」
途端にティアは上機嫌になった。
よしよし、うまくいったぞ。
これはもう勝ち確だな!!
っといけない。フラグはなるべく立てないようにしなくては。
「でしたらご提案がありますわ」
リューナさんが軽く手を上げてそう言った。
「提案?」
「はい。確かカノン王国内部でも反乱軍が形成されているのですよね?」
リューナさんの疑問にアレクが答える。
「うん、そうだよぉ。もともとはボクが旗印になってまとめ上げたのちに国を取り返す予定だったのぉ」
「そうですか。ではそれを使わない手はありませんね。ああ、旗印はそのままアレクシアさんにしておいた方がよいと思われますわ」
「なんでぇ? 僕よりヴォンの方が王位に近いと思うけど」
どうやらアレクはまだオレを王位につけたいと思っているようだな。
お断りだ。
「ヴォン様の能力をお忘れですか? あの能力は禁忌とされているもの。そんな能力を持った方が国を治めるのは無理があるかと」
おおう。
その通りなんだが、言い切ったな。
剛速球を顔面に投げつけられたような感覚だ。
「引き換えアレクシアさんならばそのまま王位につけるでしょう。そして魔族領と友好関係を結ぶのです。お互いに軍事で支配しないように」
「「この人とぉ?/こやつとか?」」
アレクとティアが見事にハモった。
お互いを指さしながらいやそうな顔をしている。
リューナさんはそれを丸無視した。
「無駄な対立にもこれで終止符を打てますし。そしてヴォン様と私たちは王宮内でスローライフを楽しむ。そうすれば魔王様もヴォン様と会えるようになりましょう。どうです? 皆が幸せだと思いません?」
……た、確かに!!
それならオレもやりたいことやりながらゆっくりできる!!
「さっすがリューナさん!!」
オレはリューナさんの手を握った。
ありがとう。やはり持つべきものは頭の回る仲間だな。
「あたしもそれがいいと思うのですよ!」
クローネちゃんがしゅびっと元気よく手を上げて賛成の意を示した。
「知っての通り、あたしは獣人族の中でも最も高貴とされるホワイトウルフ。獣人たちへの発言力は結構あるですよ!」
もしも獣人族の中に魔族との友好条約に異を唱える者がいたら説得できると思うという。
クローネちゃん、まだ幼いのにすごいなぁ。
「もちろん私も情報操作で裏から手を回せますわ。精霊族にも
リューナさんも負けじと声を上げる。
そうか、今ここにはそれぞれの種族の代表みたいな人達が集まっているのか。
クローネちゃんは獣人族、リューナさんは精霊族。
そして人族からは大国カノンの正当な後継者であるアレク。
さらに魔族からは魔王のティア。
なんだか改めてすごいメンツが集まったものだ。
これで友好条約を結べれば、勇者と魔王の二百年おきの戦いも終わるかもしれないな。
すごい場面に出くわしてしまった。
「……わかったよぉ」
アレクが渋々ながらも手を差し出す。
「……ふん」
それにいやいやながら手を重ねるティア。
クローネちゃんとリューナさんも手を重ねる。
オレは拍手した。
これにて四族の同盟が結ばれ……「何してるんです? ヴォン様、早くこちらへ」。
ああ、オレが音頭を取らなきゃいけないのね。
オレは皆のもとに向って手を重ねる。
「えー、何を言えばいいかは分からないけど。とりあえずそういう方針で! ゼノン王をぶっ飛ばそうぜ!!」
「「「「おー!!」」」」
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