5章
第1話 ってこれじゃフラグみたいじゃないか
「はあ、はあ。……ああ、もう!! ほっんとしつこいなあ!!」
オレたちはあれから来た道を急ピッチで引き返していたが、行く先行く先に刺客が放たれており街に寄ることもできなかった。
それどころか先手を打たれていたようで、サフランやオリヴィエにまで手配書が回っていた。
一体いつからオレのことを追っていたのか。
その用意周到さはさすが王国を乗っ取っただけあるな、と正直に感心するレベルだ。
おかげで手配書を見た冒険者や賊、賞金稼ぎに至るまでオレを狙ってくる。
こうしている間にも他の国に手をまわしているだろう。
もはや三族領にオレの安息地などないのかもしれない。
オレたちは追われに追われ、ついに魔族領の境にまで来ていた。
「ヴォン! 魔族領に入っちゃうよぉ!」
アレクが敵を切りつけながら叫ぶ。
「分かってるよ! でもどうしようもないでしょ」
分かってはいるが止まってしまえばすぐに囲まれてしまい終わるだろう。
こういう時勇者とか賢者とかなら自分だけを囮に使って仲間を逃がしたりつかまったりするところなのだろうが、生憎とオレは召鬼道士だ。
そんな聖人君主ではない。
とはいえオレにも仲間意識というものはあるもので、できれば皆で助かりたい。
あわよくば静かにスローライフを満喫したい。
欲まみれなのだ。
強欲だからこそ、それを諦めることなんてしないのだ。
うん、そういうことだな。
ということでオレは影からキナコを召喚した。
キナコは初めから第三級のキョンシーで《ウィンドキョンシー》という種族になっていた。
飛べるキョンシーだからだろうか。
それはまあ置いておくとして、キナコはものすごく大きくなっており、オレ達全員を乗せても飛べるほどの大きさだ。
「皆! 乗って!!」
空を飛んで逃げるのは目立ちすぎるので極力使えなかったが、既に見つかっている今はそんなことも言っていられない。
キナコは素早く飛び上がり追手の手を逃れた。
「皆、もうこの際だから魔族領に入ろうと思う。覚悟して」
もしも降りたい人がいたら人のいないところを探して降ろそう。
オレは皆に目配せする。
「もちろんですわ。私はヴォン様に従うのみ」
「僕もいとこをほっぽり出すような情けない王女じゃないよぉ」
「お兄ちゃんはあたしを助けてくれたのですよ! 今度はあたしが助ける番ですよ!!」
従者の二人も頷いている。
皆オレに従ってくれるのか。
オレは少し目頭が熱くなった。
今は泣く時間ではないな。
それは後にしよう。
全てが終わったらちゃんと感謝を伝えねば。
ってこれじゃフラグみたいじゃないか。
オレは自分でツッコミを入れて少し笑う。
「よし、じゃあ行くよ!!」
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