第12話 オレ子供だからわかんなぁい
オレは気絶させた忍者たちを縛り上げて目が覚めるのを待っていた。
情報を引き出すためだ。
それにしてもボロボロだ。
やり過ぎただろうか?
いやまあ食べ物の恨みだし仕方がない。
数分後、リーダーと思しき忍者が起きた。
「やあ、おはよう」
「っ、貴様」
目覚めたリーダーに声をかける。
何故だか彼はご立腹のようだ。
なんでかなぁ?
オレ子供だからわかんなぁい。
すっとぼけるオレをよそにリーダーは噛みついてくる。
「俺達はカノン王の使者だぞ! それを分かっていての
「
何言われても気になりませーん。
オレ、性格悪いもので。
それに全然使者っぽくないいで立ちで言われたところで説得力などない。
「まあそんなことより。君たちの目的を教えてよ」
にちゃあという音がつきそうな笑みを忍者に向けた。
「っ!! 流石はあの憎たらしい第二王女の子供だっ! その顔あの女にそっくりではないか!!」
は?
第二王女って……。エドさんの話にも出てきたアレクの母親の妹のことか?
っていうか今の顔がそっくりって、その第二王女どんな顔してたんだよ。
オレは想像して噴き出した。
「なんのことを言っているのか分からないけど。いいから早く目的をいえってば」
ゲス顔で迫るオレ。
忍者は悔しそうに顔を歪める。
「このクソガキがっ!!」
いつの間にか縄をといたのか、忍者は隠し持っていたらしいクナイをオレに振り上げた。
――ガキィィィンン
弾こうとしたクナイはあらぬ方向へと飛んで行った。
……あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ!!
忍者がオレにクナイを振り上げた瞬間、木の幹からリンダルさんが出てきて忍者の腕ごとクナイを弾き飛ばしたんだ!!
何言っているのか分からないと思うが、大丈夫。オレも分かっていない!
いつからいたの? だとかどこから出て来てるの? とか言いたいことはいろいろあると思うが、とりあえず落ち着いてほしい。
リンダルさんとはあのリンダルさんだ。
父さんと同期って言っていた人。
イプケアのギルド長でワイヤー使いのあの人。
「……いや、なんでいるの???」
オレはとりあえず一番気になっていたことを聞くことにした。
「お久しぶりですヴォン様。リンダル・シュバルツただいまはせ参じました」
リンダルさんは何を思ったのか、オレの下に来ると
というかリンダルさんのフルネームそんな格好の良い感じなんだ。
オレはそんなどうでもいいことしか頭に浮かばなかった。
どうやら相当混乱しているようだ。
「リンダル! お主生きておったか!」
そんなオレをよそにエドさんがそんな言葉を口にした。
っていうか、なに? 知り合いなの?
エドさんはリンダルさんに近づくと和気あいあいと話し出す。
「おおっ! これは驚いた! エドヴィンか!?」
「そうだ! お主、よく生きていたな!」
「当たり前だ。王家の再興を見届けずに死ねるわけないだろう」
話を聞く限りリンダルさんもカノン王国出身、それも王家の護衛の人間だったようだ。
「がははっ! それはそうだ。……ということはやはりヴォン殿は……いや、ヴォン様は」
「ああ。お前の予想している通り、ヴォン様は第二王女エルシオン様のご子息。つまりはカノン王国の正当な王子である」
ちょっと何? オレの話?
いきなりやめてよ流れ弾。
っていうか誰? エルシオンって。
オレ達を置いてけぼりにしたまま何やら二人で納得しているおじ様たち。
おい、説明プリーズおっさんズ。
「おっとこれは失礼を。このリンダル失念しておりました。情報を引き出しますのでしばしお待ちくださいませ」
リンダルさんは笑顔を向けると忍者たちの元へ向かっていった。
違う、そうだけどそうじゃない。
――しばらくお待ちください――
―――
――
―
「聞き出した情報によると、狙いはヴォン様のようです」
リンダルさんが手をふきながらそう告げる。
うん。それはそうだと思う。
だって、さっき刺客がそう言っていたし。
オレはジト目になりながらもリンダルさんの言葉に耳を傾ける。
「なんでヴォンを狙うのぉ?」
アレクが首を傾げた。
「そうですな。皆様は『死神』の噂はご存じですか?」
「ええ、ヴォン様のことですわよね」
リンダルさんの質問にリューナさんが答えた。
かくいうオレもリューナさんから聞いてその噂が判明したのだが。
「その通りです。シャーリー村でアレクシア様のご両親を呼び起こしたヴォン様のことが噂にならないわけがありません」
「それについてはごめんねぇ」
当事者であるアレクが申し訳なさそうに謝る。
「いいよ。オレがやりたかったわけだし」
オレも後悔はしていない。
オレは微笑んで見せた。
「それで? それが何でお兄ちゃんを狙うって話になるのですよ?」
クローネちゃんが大きな尻尾をゆらゆらと揺らしながら問う。
ちなみにクローネちゃんもオレの能力については知っている。
獣人族故の嗅覚の良さが発揮され秒でバレた。
「なんだか死臭がするですよ」と言われたときはさすがに泣いた。
死者たちは影に仕舞ったままだったのに。
オレか? オレから死臭がするってか?
辛すぎワロリンゴ。
もうその記憶は抹消しよう。そうしよう。
オレは逸れかけた意識を再び会話に集中させる。
「……そうですね。ゼノンはカノン王国を乗っ取った後も勢力を広げ、今では世界でもトップの軍事力を誇るようになりました。それだけでは納まらないのがあやつの憎きところでして、他の国への抑止力としてさらなる軍事力を手に入れようとしているのですよ」
要するにこの世界を軍事力で支配しようとしているということか。
「それでオレの力が欲しいってわけね」
「その通りです。私がヴォン様にそのお力を隠すように申し上げたのも、それが一つの理由になります」
「……」
考え込む一同。
確かに「
なにせ死者を使うことができるのだから。
戦争などが起こればその地で亡くなった者達を再び戦力にできるし、その死者たちは一人一人が生前よりも強い力を持つ強者となる。
軍事で世界を制圧しようとするものにとってはこれ以上ない程欲しい力だろう。
だが生憎オレは戦争など望んでいない。
いつも言っている通り、オレは静かにスローライフを楽しみたいのだ。
戦場など一番スローライフとは程遠い場所に送られるなどごめん
それに誰かに良いように使われるなど死んでもごめんだ。
「オレは人に顎で使われるなんて嫌です」
はっきりと言い切る。
オレの意見に皆頷いてくれる。
どうやらオレの意見を尊重してくれるようだ。
「アレク達には悪いけど、今はこのままカノン王国に入るわけにはいかないね。またすぐに追手が来るだろうし、まずは態勢を整えたい」
そんな内情を知ったうえでなんの準備もなく国に入るのは下策中の下策だろう。
オレは皆の顔を見た。
視線を返してくれる。
「警備網が張られる前にこの場を離れないとね」
オレたちはすぐさま来た道を引き返した。
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