第10話 冗談きついぜ
「はっはっは! モテる男はつらいですな、ヴォン殿」
少し離れた所で男性が楽しそうに笑う。
なにわろてんねん。
オレのジト目を受けた男性は咳払いを一つ打ち真面目な顔をして見せる。
「おっと申し遅れました。私はアレクシア様のお付き、エドヴィン・マルセルです。どうぞ気軽にエドでもエドさんでも呼んでくだされ」
「エドヴィン・マルセル!?」
そんなオレをよそに、リューナさんが驚いた声を上げる。
見れば彼女は目を見開いていた。
「リューナさん?」
オレは訳が分からずにリューナさんを見つめる。
「……ええっと。私が思っている人物なのかは分かりませんけれど、確か『カノン王国』の元騎士団長の名前だったはずですわ」
「うむ。それで違いないぞ」
オレは白目をむいた。
本日二度目である。
「え?」
「はっはっは! 困惑されるのも無理はなかろうな。だが事実である」
エドさん(呼び捨てはハードルが高かった)が大国「カノン王国」の騎士団長?
それが本当なのだとしたらアレクは……アレクシアは。
「さよう。アレクシア様は『カノン王国』の正当な姫君である」
オレは白目をry。
もうキャパオーバーなんです。
勘弁してください。
オレの脳裏にはダンジョン攻略の時の記憶がよみがえる。
じゃあ何か?
オレは姫様と一週間も一緒に旅をして、
おい、打ち首どころの騒ぎじゃないじゃないか。
もしかしてオレ首飛ぶ?
オレは思わず首を隠した。
「ヴォン殿の首など取るまいよ。私はお主を認めておる。アレクシア様を任せるのはお主しかおらぬとな」
「「「っな!?」」」
オレとリューナさんとクローネちゃんの声が見事に重なった。
おいおい、おいおいおい。
冗談きついぜ。
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
固まるオレをよそにリューナさんが声を上げた。
「カノン王国の前王は圧政をしいて失脚、その派閥は王族も貴族も皆処刑されたんじゃなかったですっけ!?」
「さよう。それらは全て現国王ゼノンが仕組んだことよ」
「なんですって!? た、確かに今のカノン王国は以前よりも激しい圧政をしいているとは思っていましたが……」
リューナさんとエドさんで盛り上がっている。
オレ?
オレは途中からついていけていない。
だから余計な口は挟まない。
「それこそがあやつの狡猾なところでな。あやつは昔は一警備兵だったのだが、野心を抱き前国王に接近。重用され始めてから徐々に勢力を広げていったのだ」
「そ、そんな……」
「私はアレクシア様の母君をお守りするだけで手いっぱいでな。カノン王国での内戦が終わったころにアレクシア様がお産まれになったのだ」
ふーーーん。
キャパ―オーバーです。
もうお腹いっぱい。
オレは思考を放棄した。
「それ故アレクシア様はカノン王国を見たことがない。聞けばヴォン殿はカノン王国へと向かっているらしいな。だからぜひ旅を共にしてほしくて参った次第だ」
プスプスと煙が上がる頭。
簡単にいってくれってばよ。
「ですが危険なのでは? 話が事実なのだとしたらゼノン国王はアレクシアさんを見逃さないと思いますが」
「それについては心配いらぬ。かの国では今まさに反乱軍が形成されておるのでな。あやつの圧政に国民がついに声をあげたのだ」
「……どうします? ヴォン様」
何だろう。スローライフとは全く違う流れになってきている気しかしない。
「いや、どうすると言われても……」
オレは悩む。
アレクの頼みは聞いてあげたいが、面倒ごとには巻き込まれたくない。
オレが決めあぐねているとエドさんがさらに口を開いた。
「ヴォン殿にも関係があることなのかもしれぬ」
「え?」
「アレクシア様の母君には妹君がおってな。妹君とヴォン殿は非常に似ておられるのだよ」
「は?」
全く予想だにしていなかった話を急に振られて、右フックを食らったような心持だ。
オレが……なんだって?
「もしかしたらヴォン殿も王族の一員なのかもしれぬな」
「いや。いやいやいや。ないないないない」
オレは両手をぶんぶんと横に振りながら笑う。
オレが王族とか絶対ないって。
ワロス。
だって前世の記憶でもヴォンが王族とかそういう話は全く聞いたことがないんだもの。
オレはその可能性を真っ向から否定した。
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