第9話 ご褒美ですね。ありがとうございます

 



 オレはサフランの温泉宿をでて「キリカ」へと旅立つ。


 非常に、ものすごく名残惜しかったけれどしかたあるまい。


 ずっとサフランにいては不穏な動きを見せる貴族たちと関わることになっていただろうし。

 貴族となど関わっていいことなどない。



 何はともあれ、サフランを出発したオレ達(もちろん二人もついて来た)は大きな川を渡っていた。


 この川を渡り終えて森を抜ければ「キリカ」の町がある「カノン王国」へとたどり着く。



 意外と近いのだな。


 何度も言うがオレは地理が弱い。

 認めよう。方向音痴であると。


 そういう意味では二人が付いてきてくれてよかったのかもしれない。

 この川に至るまでにも何度か道を間違えそうになって二人に引っ張られたわけだし。



「お兄ちゃん、岸が見えてきたですよ!」


 クローネちゃんがワクワクとしながら船から身を乗り出す。


「あんまり乗り出すと落ちちゃうよ」


 オレはそんなクローネちゃんを支える。

 ふわふわな尻尾がぶんぶんと振り回されオレの顔に当たっている。


 ご褒美ですね。ありがとうございます。




 オレはモフモフが好きだ。


 だから影にひそむホーンラビットのアグニルやウィンドサーバルのキナコは定期的に出してもモフッている。


 もうもっふもふなのだ。

 オレの癒し。


 ちなみにダンジョンをクリアしたおかげでキョンシーたちのレベルが上がり、第二級から第三級になった。

 そのおかげか父さん母さんは生前の記憶を少し回復したようだ。


 ヴォンと呼ばれたとき、オレはまた泣いた。


 恥ずかしいので詳しくは語らないが。




 さて、渡し船を降りて森へとさしかかる。


「ヴォン!!」


 ちょうどその時、誰かに名前を呼ばれた。

オレは声のした方を振り返る。


「え?」


 オレの眼にはある種信じがたい光景が映っていた。


 なんとアレクにそっくりな女性がいたのである。

 その隣にはシャーリー村でオレに刃を向けてきた男性もいる。


 名前は確か……。うん覚えていない。


「え? ど、どちらさん?」

「僕だよ! 僕!」


 女性が叫ぶ。聞き覚えのあるその声はアレクのようだが、オレオレ詐欺ならぬ僕僕詐欺には引っかからないぞ。


 オレは目線を女性に向ける。


 ショートストレートの金髪に湖のような青い瞳。

 その目はくりっとした垂れ目で、オレを見る目は優しい。

 

 その特徴はアレクのものと完全に一致していた。

 

 だが、スカートにレギンスという出で立ちだ。


 明らかに防御力が下がっていると思うが、もしかしたら機能性の充実した衣装なのかもしれない。そうでないとすれば……。




 いやー。まさか。

 アレクが女な訳ないよね!!

 そうだよね!!


 だけどその女性は見れば見る程アレクの面影を残している。


 ……ないと思うけど一応確認しておこうかな!

 ないと思うけど!!


「……アレク?」

「そうだよぉ~!!」


 oh……。なんてこったい。


 アレクに女装趣味があったなんて。

 そしてとても似合っている。


 元から可愛い顔立ちをしていたから本当に女性に見える。


「すごい似合ってるけど、どうしたのその恰好?」


 オレは刺激しないようにやんわりと聞くことにした。


「えへへ、こっちが僕の本当の姿なんだぁ」


「……え? まって。アレクって女の子だった……ってコト!?」

「うん~。そうだよぉ」


 oh……。なんてこったい。



 オレは白目をむいた。

 またしても小さいキャラクターみたいになってしまったが仕方がないだろう。




「ええっと、つまりアレクは女だったけど、男の様に振舞っていたってわけ?」

「うん。そうそう~」

「ええと、なんで?」


 つまり、どういうことだってばよ?

 頭はパンク寸前だ。


「それは私から説明しよう」


 アレクについていた男性が口を開いた。


「アレクシア様はご両親の治療費をためるために冒険者になられました。一人で冒険者をやるには女性よりも男性である方が何かと都合がよいのです」


 それはわかるが……。

 ん? アレクシア?


「アレクシアって?」


「僕の名前だよぉ~。本当の名前はアレクじゃなくてアレクシアなのぉ」

「そうなの!?」


 アレク……もといアレクシアはオレの腕に絡みついてくる。

 腕に柔らかい感触が確かにあった。


 見れば軽装により強調されたふくらみがある。

 オレはまじまじと見てしまった。


 本当に女のようだ。



 オレの後ろにいたリューナさんとクローネちゃんからの視線が痛い。


 違うよ! 不可抗力だよ!!


「ちょっとアレク」


 オレはアレクを引きはがす。


「ええ、なんでさぁ。一緒にダンジョンとかいった時は組ませてくれたくせにぃ」

「そ、れは。だって男同士だと思ってたし」


 ぷりぷりと怒るアレクは可愛らしく、同年代ということでどぎまぎしてしまう。



「……ヴォン様、こちらの方はどなたですの?」

「そうだよお兄ちゃん」



 うおおおお。後ろからとんでもない圧がかかっている。

 振り向かないでもわかる。


「だ、だからオレはしらなかったんだって!」


 オレは涙目になった。

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