第4話 死せるもの達よ、目覚めの時間だ
弓の音が聞こえた。
「あっちからだ」
オレは山を登り、やがて頂上付近までやってきた。
その奥に洞窟のような穴が開いていた。
恐らくそこが山賊のアジトなのだろう。
「っ!!」
カっと頭に血が上るのを感じた。
入口の左右に村娘だったと思われる女性たちや子供の遺体が山積みにされていたのを見たからだ。
なんてむごい……。
人はどこまで無常になれるのか。
その非道な行いに、嫌悪しか感じない。
オレはそんなに正義感がある方ではなかったはずだが、山賊たちの行いは許せない。
ガサガサと木を分けて山賊と思われる男がやってきた。
手には矢が刺さったままの鳥が握られている。
男はオレには気が付かずに洞窟へと入っていった。
やはりここが山賊のアジトか。
オレは周辺を確認する。
出入り口がここ以外にもあるかどうかを確かめねばならないからだ。
裏手側に回るとやはりもう一つ出入口があり、酒をかっ食らう男達の姿が確認できた。
此方が主な出入口のようだ。
先ほどの場所は差し詰め、ゴミ捨て場兼狩った得物の搬入口と言ったところか。
「がはははは! 今回は大量だったな」
「ああ! それに弱かったな」
「本当だよ。あれがこの辺りじゃ最強と言われていた村かって疑ったもんな」
息を殺して見ていると村娘と思われる女性が数人、山賊に酌をしているのが見えた。
可哀そうに、皆震えている。
そんな彼女たちも感染はしているのだろう。
時折咳をして、辛そうな様子が見て取れた。
山賊たちはまだ病に気が付いていないのだろうか。
「ぶぇーっくしょい!!」
「きったねぇなあ」
「わりーわりー。昨日ぐらいからちょっと風邪気味でよ」
「うつすなよ」
どうやら既に感染している者もいるようだ。
やはり伝染病の類だったか。
そうとわかれば山賊を放っておくことはできない。
爆発的な感染をさせない為に、彼らにはここで犠牲になってもらおう。
ただ、山賊たちは数が多そうだ。
オレと父さんたちだけでは対処ができない。
誰一人として逃がすわけにはいかないのだ。
……仕方ないか。
オレは気づかれないように死体の積まれた裏手に回った。
人手を手に入れる為に。
「悪いけど、少し協力してもらうよ」
オレは死体の上に札を大量に置き、念を込める。
紫色の魔法陣が死体の山を包んだ。
『――死せるもの達よ、目覚めの時間だ』
印を結び、口上を上げると、十数体の死体が動き出した。
皆外傷はないが、皮膚は黒く変色している。
恐らく病で亡くなったのだろう。
そして外に積まれていた。
可哀そうに。
彼女たちにはさぞかしうらみがあるのだろう。
心なしか彼女たちの顔はヤル気に満ちていた。
オレは動き出した彼女たちを見回すと頷く。
「君たちにとっても、村の仇だろう。オレを手伝ってくれ」
闇が蠢く。
静かに足元に這い寄るように。
オレたちはアジトを囲んだ。
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