第5話 こんばんは、山賊の皆さん

 


「ん? 何だ今のは」


 山賊の長であるガイは一瞬だけまばゆく光った裏手側を気にした。


 雷でも落ちたのだろうか。

 そう予想したガイは部下に声をかける。


「おい、ちょっと様子を見て来い」

「了解っす」


 酒に酔ってふら付く部下は千鳥足のまま裏手へと向かっていく。


(あいつは飲みすぎだな)


 そう思うガイだったが、それをとがめることはしない。

 ガイ自身も相当気分よく酔っていたのだから。


(あの村襲って正解だったぜ。酒も食料も金品もため込んでいやがった。それに……)


 ガイはちらりと隣に侍らせた女を見る。


(こりゃあ上玉じゃねーか)


 ガイは思わず舌なめずりをして女を見遣る。

 ふっくらとした肌には弾力があり、ぽてっとした唇に大きな眼。

 その表情は怯え切ったもので、ガイを煽るには十分すぎた。


「おい、お前」

「は、はい」

「服脱げ」

「っえ」


 ガイは下卑た笑みを向ける。


「えじゃねーよ。早く脱げ。それで俺様の相手をしろ」


 サッと血の色が失せる女の顔は、またガイを煽った。


(何度見ても、その顔は最高だ)



 ガイは村を襲っては金品財宝を奪い、年頃の娘をさらっては犯し、満足すれば殺すことを楽しみにしていた。

 今回さらってきた女たちもこれまで同様に犯して壊した。


 中には歯向かってくる強気の女もいたが、今まで以上にはずかしめた。


(あれは最高だったなぁ)


 村をおそって今日で三日目。



 これほどまでに充実したことはない。

 とガイは思っていた。


 今日も残っている女たちを犯すつもりである。


「ぎゃはははは!! ずりぃですよお頭ぁ!」

「お前らは俺様が愉しんだ後ならヤってもいいぜ」

「マジっすか!? あざーす!!」

「まあこいつが耐えられるかによるがな」


 ターゲットにされた女は青い顔で涙を浮かべている。


(ああ、最高だ)


 ガイはにやにやと気味の悪い笑みを村娘に向けた。



 なかなか脱がない女にしびれを切らしたガイは乱暴に服を破く。


 びりびりと音を立てて切り裂かれていく布地。


「いやあああああ!!! やめてぇえ!!」

「だははははは!!! いいねぇ!! もっと聞かせろ!!」



 ダアアァン!!!



 ガイの横を何かが吹き通った。


 後ろを見れば裏手を見に行かせた部下がねじ切れるようにして倒れていた。

 ぴくぴくと震え、血を流す部下にガイは目を見張った。


「な、なんだぁ!?」

「お、おいお前どうした!?」

「誰だお前!?」


 にわかに騒がしくなるアジト内。

 ガイは裏口から足音がするのに気が付き武器であるナイフを構えた。


 影から出てくるようにして現れたのは小さな子供。

 ハニーブロンドの髪に真っ赤な瞳の子供だ。


 その子供の他には誰の気配もなかった。


「こんばんは、山賊の皆さん」


 子供特有の高い声が洞窟内に響く。

 よくある声だ。

 だが、どういう訳か凄まじい威圧感のある声だった。



「お前がやったのか?」


 目線をちらりと部下に落としたガイは少年を警戒しながら問う。


「まさか。オレみたいな子供が大人をそんな風にできる訳ないじゃないですか」


 少年は笑う。

 無邪気な笑みだった。


 ガイにはそれが異様に気持ち悪く感じた。


「ここは子供の来る場所じゃねーんだよ!!!」


 どこに気味の悪さを感じているのか分からないまま、部下が子供に襲い掛かる。

 振り下ろされたナイフが子供に届こうかというその時、勢いよくそれが弾かれた。



 ナイフが木の枝のようにぐにゃりと曲がる。


 次いでゴリっという固いものにひびの入る音が響いた。



 ガイは、その光景を処理するのに数秒を要した。


 少年の後ろの闇、そこからふっくらとした手が出きて部下のナイフを掴み上げ曲げた。そして部下の頭を掴み上げて振り下ろしたのだ。


「な、なん……」

「なにって、君たちならよく知っている人たちでしょう?」


 ガイの眼に飛び込んできたのは闇から出てきた女の顔。


 青白くなっているが、見間違い様がない。

 先日自分たちがさらってきた女だ。



 だが、ありえない。

 あいつは確かに死んだはずだった。


(俺様がなぶり殺したやつじゃないか!?)


 ガイの眼には確かに殺したはずの強気な女が映っている。

 女は地に叩きつけたガイの部下の首をまるで果物の様にもぎ取った。


 ぶちぃっという気味の悪い音と共に大量の血しぶきが辺りに飛び散る。


(ありえない!! 人間の首を素手でもぎ取るなんて!!)


 部下たちも異常さに気が付いたようだ。


「ヒ、ヒイ」


 何人かが逃げていく。


「ま、待ててめぇら!!」


 ガイは己の怖気を振り払うように叫ぶが、部下たちは一目散に出口へと走っていく。


「ま、待て! 俺様もっ!!」


 ガイは遅れて逃げ出す。

 すると入り口外にいた部下が突然崩れ落ちた。


「!?」


 思わず立ち止まるガイたち。



 外には無数の女や子供が立っていた。

 皆一様に青白い顔をしながら、入り口を囲んでいる。


 それらは皆見覚えがある。

 攫ってきて死んだ女子供だった。

 その数およそ十数人。



「う、うわああああああああ!!!!」


 ガイと部下たちの悲鳴が山にこだました。




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