第11話 テイムするなら可愛いモンスターがいいぃぃい

 

「さってと。無事に素材も回収できたし、クロスボウの性能も分かったし、それに父さんたちのこともちょっとは分かったかな」


 オレはビリーベアの残っていた爪をはぎ取り、腰のポーチへと入れた。


「それにしても、レベル上がったなぁ」


 先ほどビリーベアを倒した時、オレではなく両親のレベルが上がった。


 “オレのレベル”ではなく、“父さんたち(略)のレベル”が上がるのか。


 “モンスターを倒すと経験値が上がる“というのはRPGでは定石ではあるが、ヴォンとしての生で自分のレベルが表示されているところなど見たことがなかった。


 そこはゲームと違うのかと思っていたが、どうやらしっかりとレベルという物があるらしい。


 やっぱりあれだろうか。

 勇者とかじゃないとステータスを見られないとかそういうことだろうか。


 どうせオレは脇悪役ですよ~。



 まあそれはそうとして、両親のステータスは見られるようになった。

 これは恐らく自分の能力で使役している=主人という構図が成り立っているからだろう。



 そしてレベルが上がったことで表示される条件を満たした……と言ったところだろうな。



 何にせよ能力値を見られるのはありがたい。

 オレは両親のステータスボックスを開いた。


 《名前:父さん(アグナー)》

 主人:ヴォン

 種族:キョンシー(第一級)

 レベル:5

 称号:腐った死体

 固有スキル:なし


 HP:108

 MP:5

 攻撃:30

 防御:32

 俊敏:1



 《名前:母さん(エルダー)》

 主人:ヴォン

 種族:キョンシー(第一級)

 レベル:5

 称号:腐った死体

 固有スキル:なし


 HP:96

 MP:55

 攻撃:27

 防御:25

 俊敏:2



 うーーーーーん。ツッコミどころが満載まんさいだ。


 というかまず父さんたち種族腐った死体じゃないんだ。キョンシーなんだ。

 今初めて知ったよ?


 そうだね。道士ってもとはキョンシーを唯一倒せる専門家みたいなものだもんね。


 ていうか主人って。

 扱いがモンスターとおんなじ感じなの?


 オレってモンスターテイマーならぬ死体テイマーなの?

 流石魔王の配下キャラなだけあるね。


 オレはふっと微笑んだ。

 そして崩れ落ちる。



 嫌だあああああああ!!! テイムするなら可愛いモンスターがいいぃぃい!!!

 オレグロいの苦手って言ったじゃんんんんん!!!!


 オレは地面を力強く叩く。

 号泣だった。


 ずるいぞ世の中の普通のテイマー諸君!!

 可愛いモンスターをテイムしてキャッキャウフフしてんじゃないよ!!

 誰か替わってくれえええ!!!



 ――そのまま少々、お待ちください――


 ―――


 ――


 ―




「……はあぁぁ」


 オレはしばらくの後、むくりと起きるとくそでか溜息を吐いた。


 駄々をこねても現実は変わらない。

 オレは死体しかテイムできない。

 そういう修行しかしていないのだから。


 というかテイムとはまた別だ。


 オレのジョブ「召鬼道士しょうきどうし」は死者を統べるもの。

 死者の王だ。


 従えられるのは死者のみ。

 生者を従えることはできない。


 どれだけ可愛いモンスターを見つけても死者にしなければ従えられない。

 つまり可愛いモンスターを可愛く無くさなければならないのだ。


 グロい方面に。


 むしろ何故今まで気が付かなかったのか。


 嫌だ。イヤすぎる。



「っていうか名前が父さん、母さんって!!」


 オレは叫んだ。


 名付けた記憶も、主人になったつもりもないが、しっかりばっちり欄に載っている。

 なんてこった。



 他にもいろいろツッコミたいところはあるがとにかくこれだけは言わせてほしい。


「それに俊敏の低さよ!! 1て!! 2て!!」


 そりゃあ遅いわけだ。

 あまりにも戦闘に向かなすぎる。



 これオレ冒険に出ようにも詰んでね?



 仲間を募るのは無理だし、ソロで戦うにも限度がある。


 ――終わった。

 はいはい、詰みゲー詰みゲー。



 オレはむしゃくしゃしてお札を二枚用意した。


 一枚はビリーベアに、もう一枚はビリーベアに食われていたホーンラビットに乗せる。

 精神を統一し念を込め、印を結ぶ。


 何も考えたくない。


 ただひたすら無になる時間が必要だった。


『――死せるもの達よ、目覚めの時だ』



 二枚の札から紫色の魔法陣が浮き出て死体を包む。

 バチバチというはじける音が森に響いた。


 ――シュウウ


 やがて紫の光が収まると一つの死体が動き出す。


 ホーンラビットだ。

 その体は半分以上なくなっているのに上半身のみでゆっくりと動き出した。



「ヴワアアアアアアアアアグロいいいいいいいい!!!!!」



 何というか、喰われかけの……なにあれ? 腸?


 ともかく内臓がチラリズムしている。


 誰もそんなチラリズム、望んでないわ。

 そんな状態で近寄ってこないでください、吐いてしまいます。



 オレは急いで目をそむけ、ビリーベアを見る。

 ピクリとも動かない。


 オレ自身の能力のレベル不足なのか、それとも頭を落としたらダメなのか。

 それは分からない。


 オレの能力にも制限があるのかも知れないな。


 どこまでの欠損なら動き出せるのか、これも知る必要があるだろう。


 今後の課題だな。



「……あれ?」


 じゃあ欠損がなくて腐ってもない死体ならどうなるのだろう。

 臭いも抑えられるのではないか。


 父さんと母さんは蘇らせるのに三年経ってしまったからこうなっている訳で。

 ホーンラビットもきれいに死んでいたら可愛いまま使役できていたのでは?


「……」


 モンスターにも自分の能力が使えるということは、たくさん集めれば一人でも旅ができるということ。

 それこそ一部隊築くこともできるだろう。


 もしかしたらオレの能力は自分が思っている以上にチートなのかもしれない。


「……よし。新鮮な死にたてほやほやのモンスターを探しに行こう!」


 仲間がいなくても何とかなる気がする。


 こうしてオレは新鮮な死体を探しつつ、静かに暮らせるところを探し始めた。





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