第10話 うーーーん、おっそい!!
(いた)
オレは目的のビリーベアを見つけた。
その手元にはホーンラビット(一角獣で人くらいの大型の兎)がおり、今まさに喰っているところだった。
すでに下半身はなく、残すは上半身。
周囲には大量の血が飛んでいる。
(うわあ、
オレは100mほど風下の木の上で照準を合わせる。
まるでライフルのような狙い方だ。
的はビリーベアの首と目、そして足。
ピントが合う。
得物はまだ気が付いていない。
風下にして正解だったな。
ホーンラビットの血の匂いで風下にいるオレの臭いはかき消えている。
だから安心して照準を合わせられるのだ。
(今!!)
オレは引き金を引く。
スンという
矢はビリーベアの右目に突き刺さる。
ビリーベアは鳴き声を上げ、大きな獣のうめき声が森の奥に響いた。
それを気にせず続いて二発目、三発目。
のど、足と突き刺さったのが確認できた。
良かった。
ゲームの感覚が残っていた。
やはりクロスボウだけでは仕留めきれず、ビリーベアは山の方へ向かって逃げていく。
だが当然それを許すオレではない。
「父さん、母さん! いくよ!!」
影から二人が出てくる。
いよいよ二人の力を見ることができるのだ。
オレは先行して、そして後ろを振り返る。
モタ……モタ……
全然オレのスピードに付いてこられないのだ。
数秒後、オレに追いついた二人はビリーベアへと向かっていくが、手負いの獣にも追いつけそうにないくらいに動きがゆっくりだ。
うーーーん、おっそい!!
想像以上におっそい!!
ビリーベアは足に怪我を負っているはずなのに、それよりもはるかに遅い。
ビリーベアも心なしかびっくりしている。
オレもびっくりだ。
「グオオオオオオ!!」
「!!」
ビリーベアが雄たけびを上げた。
反撃できると感じ取ったのだろう。
これだけ動きが遅いとなると相手の攻撃を避けることもできないだろう。
オレが出るべきか?
オレは数秒考えを巡らせる。
今回の目的はクロスボウの威力と戦術の確認、そして父さんたち(略)の能力の把握だ。
前者はもう確認できているが、後者はまだほとんど何も分かっていない。
今後のことを考えると、なるべく早くそれらを把握しておかねば厄介なことになるだろう。
しかし、もし父さんたちの肉体が切り裂かれたり頭と胴体が分かれたりしてしまったら?
修復できるのだろうか。
もしかしたらそのまま死んでしまうのではないか。
いや、もう死んでいるのだが。
あーもう! 分からん!
なるようになれ、だ。
オレは考えるのをやめた。
万が一の時はすぐに助けに入れるようにクロスボウを背負うと、足に着けておいたサバイバルナイフを構える。
このナイフは素材回収のために肌身離さず持っている。
父さんの忘れ形見だ。
父さん、いるけど。
それに、接近戦ならばクロスボウよりも使い慣れたナイフの方がよいだろう。
「グウオオオオオ!」
そうこう考えているうちにビリーベアが巨大な腕を振り上げ、鋭い爪が父さんへと下ろされる。
――ガキィィィィイン
父さんの体に当たった爪が木っ
「あああああああああ!!!! 依頼品の素材があああああ!!!!」
オレは叫んだ。
素材が砕け散った。砕けてしまった。
父さんどんだけ固いんだよ!?
ビリーベアの爪は、そのまま武器にされることもあるくらいの固さを誇る代物だ。
そのはずなのに、父さんの腐った肉に触れた瞬間、粉々だ。
父さんたちの硬度いくつ?
何? もしかして父さんたちってダイヤモンドなの?
オレは自分で考えておいてすぐさま首を振る。
あんなグロいダイヤモンド嫌だ。
それはともかく、隙のできたビリーベアの胴体に母さんが抱き着いた。
――メキメキッ
骨がひしゃげる音が聞こえた。
ビリーベアが血を大量に吐き、
背骨が
「ストップ! 父さん、母さん。ちょっと待って!」
倒れたビリーベアに乗りかかろうとする父さんたち(略)をオレは慌てて止めた。
これ以上苦痛を味わわせるのも可哀そうだ。
……それに父さんたちに任せておくと素材がなくなりそうだし。
え? それが本音?
いや~まさか。
オレは心根が優しい奴なので、いたずらに苦しみを与えたくないだけですよ。
それに倒し方が汚いと、素材を回収するときにグロいものを見る羽目になる。
結局は自分に還ってくるのだ。
だからオレは出来るだけきれいに倒すことを
そういうことでオレは素早く瀕死のビリーベアにとどめをした。
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