第9話 うーーん、安直

 


 武器を手に入れてご満悦まんえつなオレはさっそくギルドまでやってきた。


 武器を手に入れた代わりに寂しくなった懐を温める為である。


「いらっしゃいませ~。あらヴォン君」


 入ると温かい声が迎えてくる。リズさんだ。


「こんにちはリズさん」

「はいこんにちは~。新しい依頼かな?」

「うん。武器も買えたし、魔物討伐系の依頼がないかなって」


「そうなの~。それなら『ビリーベア』の爪の採取の依頼が今さっき来たわ。今から張り出すところなんだけど興味あるかしら?」

「『ビリーベア』ってⅮランクの魔物ですよね? この辺にいるんですか?」


 ビリーベアは肉食で電撃攻撃などをしてくるモンスターで、確かゲームだと勇者いる始まりの街を出て最初の難関だったはずだ。


 いわゆるチュートリアルのボス。


 電撃をしてくる熊型モンスターだから「ビリーベア」。

 うーーん、安直だ。




 この町は勇者も通らないほど小さな場所なので、どんなモンスターが生息しているのか分からない。

 オレも前世では訪れたことのない場所だった為未知数だ。


 まあ修行中に遭遇したモンスターのレベルから考えて、そこまで強い奴がでることはないだろう。


「そうね~。普段はいないはずなんだけど、繁殖期はんしょくきだから山から下りてきているみたいでね。森に入った人が目撃しているのよ。討伐ついでに採取もしてもらうつもりでいるんだけど」

「ふ~ん。じゃあオレいってきますよ!」


 オレは依頼を受ける旨を伝えるとギルドを飛び出した。

 手に入れた武器を試すいい機会だ。


「あっちょまって!! これは……!!」


 後ろからリズさんが何か言ったような気がした。

 まあ何かあればまたギルドに戻った時にでも内容を聞こう。



 ◇



「さて、と」


 飛び出したはいいが、肝心のビリーベアがどのあたりに出ていたのかを聞いてくるのを忘れた。


 リズさんが言ってたのはこのことだったのかも知れない。


 オレってばまたやってしまったのでは?


 まあやってしまったことは仕方がない。

 いつものことだ。


「仕方がないから、適当に探すか……森で目撃情報があったって言ってたよな」


 先ほどの話では山から下りてきている可能性があるとのことだった。

 ならば森の奥、山のふもとを探したら案外すぐに見つかるかもしれない。


「よし、行ってみるか」


 オレはズンズンと進む。


 しかしのどかだ。

 鳥のさえずりと木の葉の擦れる音、風は穏やかに通り過ぎる。


 本当にⅮランクモンスターの目撃情報があったのか疑問なくらい静かだ。




「ん?」


 森の奥までくると、ふとツンと刺激する臭いが鼻に届く。

 これは……。


「血の臭いだ」


 ある種嗅ぎ慣れた臭い。

 修行の時に嫌という程嗅いだ臭いだ。


「こっちからか」


 オレは鼻をスンと鳴らすとさらに奥へと進む。

 手にはクロスボウ。

 既に装填そうてんは済んでいる。


 このクロスボウは装填までに時間はかからないが殺傷能力的には一撃必殺とまではいかない、何発も的に当てることを想定して作られたものだ。


 距離を取って戦うか支援向きの武器。

 普通であればパーティーを組んだ上で、遠距離からモンスターを狙い撃ちにする攻撃パターンが定石だろう。


 だがオレはソロ。

 その戦術は使えない。



 そもそもパーティーなんかいたらふとした瞬間に父さんたち(略)が出てきてしまえば一瞬で阿鼻叫喚あびきょうかんだろう。


 常に気を張っていなければならないのは避けたいし、だからオレにとってはソロの方がよいのだ。


 別にボッチってわけじゃないぞ。

 言い訳ではない。




 さて、そんなことはどうでもよいんだ。

 それよりも。


 オレの攻撃パターンは決まった。

 遠距離からの数発攻撃で弱らせた後確実にる。

 これだ。



 あと父さんたちの力も知りたい。

 家でもそうだったが、昨日の父さんたちの力は生前よりも強くなっているように思う。


 もしかしたら一度死んだら強くなる法則があるのかも。

 包丁事件で体が鉄より硬いことが分かったのだし、体の硬度も知りたいところだ。


 たぶん、人間が殴ったくらいじゃ全く効かないのだろうが。



「なんだか人間だった面影がどんどん消えていくなぁ」


 オレはひっそりと独り言ちた。


 いけない。意識が逸れ始めた。


 オレはゆっくりと息を吸うと、血の臭いのする方角へと慎重に歩を進めた。



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