第8話 テンションぶちあがる~!

 


 オレはあの後リンダルさんに事情を説明し、何とか納得してもらうことに成功した。


 ……成功、だよな?


 どうだろう。

 イマイチ全ては伝わっている気がしない。


 まあ納得してくれたからヤンキーどもを回収してくれたのだし、それに宿の手配までしてくれたし。

 結果オーライということにしておこう。



 ちなみに父と仲が良かったということなので、ギルド内ではできなかったご対面をさせてあげた。


 嬉しい悲鳴が聞けるかと思えば、聞けたのは


「ふぇええええええ!!!! グロいいいい!!」


 というガチの悲鳴だった。解せぬ。



 いや。解せるか。


 父さんの見た目を思い出す。

 あの時のオレは気が動転していたからやってしまったが、今にして思えば感動の再会になどなりうるはずもない。


 いきなり腐った死体とご対面して喜ぶ人がいたらそれはもうただのサイコパスでしかない。

 生前の父さんを知っているリンダルさんからすれば、衝撃のビフォーアフターだ。


 あら不思議! 男前の人相が今ではモザイク加工必須の変わりよう。

 オレだったら失神している。



 まあ過ぎたことだ。

 オレは心の中でリンダルさんに謝る。




 そのリンダルさんはヤンキーたちを回収してギルドへと戻った。

 なかなか協力的 (びくついているが)だし、彼の知識はとてもありがたい。


 半ば脅しのようなご対面ではあったが、結果としてはよい関係を築けたのではないか。




 オレはこの世界に生まれ変わってから今日まで、家族以外の人と関わってこなかったのでこの世界の知識はほぼゲームで知ったことだけだ。

 ということは、ゲームと現実でギャップがあるかもしれない。


 彼はそれを正してくれる貴重な人材だ。

 大切にしないと。


 それにギルド長という肩書も活かせる。

 味方にしておいて損はないだろう。


「さて、と」


 オレは報酬としてもらった金を数え終えると、袋に仕舞う。

 リンダルさんはそのまま手続きをしてくれて一日で三つの依頼を完了させてくれた。


 これで晴れてDランク。

 報酬もたぶん多少色を付けてくれたのだろう。

 思っていたよりも多くもらえた。


 これだけあればある程度の武器が買えるだろう。


「明日は武器屋にでもいってみるかぁ」


 じゃりじゃりと音を立てて揺れる袋。



 ぐへへ。たまらん重みじゃの~。


 オレはそのままベッドに倒れこむ。

 なんだかこのまますべてが上手く行きそうな気がする。



 いかんいかん。

 こういう慢心まんしんが後で取り返しのつかないミスにつながるのだ。


 よし、明日からも気を引き締めて臨もうじゃないか。



 ◇


 翌朝、オレは開店と同時に武器屋へとやってきた。


 うおおおおお! ファンタジー世界の武器屋!!!

 テンションぶちあがる~~~!!


 そしてこのテンションである。


 目の前に広がる武器の数々。

 日本に居たら絶対に見ることのない景色。


 そりゃあテンションも上がるというものだ。


「おっちゃん! これはどうやって使うの?」

「おう、これはなここに球を装填そうてんして……」



 オレは絶賛子供のふりをしていろいろ試させてもらっている。

 体は子供なのだから問題にはならないはずだ。


「坊主には長弓はちと難しそうだな。それならいいのがある。ちいっと待ってな」


 武器屋の店主はそう言うと店の奥に入っていった。

 ドワーフ族の背の低い人だった。


 なんとなく親近感を覚えた。




 オレは気分よく店内を見て回る。


 長剣、レイピア、棍棒こんぼうに銃、そして弓。


 実に様々な武器が置いてある。

 男のロマンが詰まっている場所だ。


 皆一度はこういった武器を持つことに憧れるだろう。




「待たせたな」


 店主が戻ってきた。

 その手には見覚えのある武器がある。


「それは……クロスボウ?」

「そうだ! よく知っているな」


 確かにクロスボウであれば体の小さいオレでも他の弓に比べたら扱えるだろう。

 物によるが。


「これは軽い・丈夫・飛距離があるの三拍子そろった代物なんだがな、どうにも人気がなくてな」

「ああ。確かに剣や槍の方が人気あるよね」


 やはり見た目で格好良く、戦闘職の華ともいえる剣や刀、槍などに人気が集中してしまうのはよくあることだ。


「そうなんだよ。おいらとしてはこれも相当いいものだと思うんだがな、自分の力量を分かりやすく示せる剣とかばっかり売れてってとうとう残っちまった。お前さん、見る目ありそうだしどうかと思ってよ」


 オレはおっちゃんからクロスボウを受け取ると軽く操作してみる。


 ……うん。確かに軽いし、小さめだからオレが持っていても引きずらないな。

 それに照準もあって遠距離でもある程度は狙えそうだ。


「一発撃ってみてもいい?」

「いいぞ。そこに的があるからこの試し矢使ってみな」

「ありがとう」


 試し矢をつがえ、的を狙う。


 ――スン


 ほとんど音が出なかった。

 一方で的にはしっかりと当たっている。


 反動も少ないし、確かにオレにとってはいい武器だ。


 ふと振り返るとドワーフのおっちゃんが驚いたようにオレを見ていた。


「こいつは驚いたな。坊主武器慣れしていやがる」

「あはは、まあね。よく父さんから指南してもらっていたから。これもらうよ。いくら?」


 嘘である。

 ゲームで鍛えました。


「ははそうか! ならちょっとまけてやろう」

「まじ!? 最高!! ありがとう!!」

「その代わりちゃんとメンテナンスして長く使ってくれよな」

「任せてよ!」


 オレに建前用の相棒ができた瞬間だった。

 武器を腐らせないように普段からも使うとしよう。



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