第3話 いや、あるんかい!!!

 


「さて。自分の生きたいように生きると決めたけど、これからどうしようかな」


 オレは箇条書きにした紙を折りたたみポーチに詰めた。

 家の外に出ると父さん(腐った死体)と母さん(腐った死体)が待っている。


 とにかく、何をするにもこの二人が居てはままならない。

 離れているのに異臭がここまで漂ってくるのだから。


 オレは目を細めながら二人へと近づく。


「おはよう二人とも。よく眠れ……いや眠る必要ないんだった。えーっと、今日も元気?」


 死体に元気もくそもないだろうと思いつつそんな言葉しか出てこない。




 ここ何日かでこの彼らについて少し分かってきた。


 蘇らせた死体は休息を必要としておらず、ゲームでありがちな日光に当たったら灰になるとかそんなことはなかった。



 ただ明るいところで死体(グロ注意)を見なければいけなくなるという、こちら側の精神負担が大きくなるだけなんだよな。



 そして体が異様に固く力が強い。

 これだけ肉もボロボロなのに、包丁なんかでは傷一つ付かず、逆に包丁が折れた。



 別にオレが包丁を突き立てたわけではなく、例によって母さん(略)が料理をしようとしたときに包丁を足に落としたことから判明したことだ。


 そして試しに近くにあったジャガイモやリンゴなどを持たせたら、一瞬で木っ端みじんにされた。



 あれ? もしかして握力ゴリラ並み?


 オレは少し怖くなった。

 この力、オレが思っているよりも相当やばい奴なのではないか? と。



 何せ修行中などそんな先のことを考えることもなく、ただひたすら術式を完成させることを目標としていたのだから、蘇らせた後のことなど考えている暇などなかったのだ。



 その結果がこれ。

 後先考えないというのも考え物である。



 仕方がないのでいろいろと彼らについて研究した。


 そして分かった。

 彼らは休息どころか飲食も必要ない。


 むしろ飲食させると大変なことになる。


 オレはびちゃびちゃと音を立てて起こった現象に叫んだ。



「ヴワアアアアアアアアア!!! グロいぃぃ! 汚い!! なにこれ!?」



 入口から出口へと直行するのだ。

 へだてるものなどないとでもいうかのようにすぐに下から出てくる。


 試しに水をあげれば直通で汚水が放出され、リンゴをあげれば腐ってドロドロに溶けたリンゴだった何かが放出される。


 彼らの体の中ではろ過ではなく、逆ろ過が行われているのかもしれない。



 つまり大変な思いをするのはオレだ。

 後掃除が大変なのだ。


 もう二度とやらねぇ。

 オレはそう心に決めた。




 まあそれはさておき現実問題、もうそろそろ両親が残してくれた金も底をつく。

 それに食料もモンスターを狩ってしのぐのはもうやめにしたい。


 ちゃんとした暮らしをしたいのだ。

 流石に日本で生活していたオレがそんな蛮族の宴みたいな生活をずっとしていくのは避けたい。


 ちなみにこの世界はヨーロッパのような世界なのに、日本の文化がある程度流通しているところがある。


 例えば肉じゃががいい例だ。

 ただし日本食とかはあるのに、水道はなく川や井戸に水を汲みにいかなければならないし、トイレはゴミ捨て場にポイだし。


 それに何より風呂がない。


 いつもは川で行水するかタオルで拭くだけだ。



 日本人としては毎日温かい風呂に入りたいところ。

 ならば風呂付の家に住むことを当分の目的としよう。


 下らねー目的とか言うなよ。

 実際問題、衛生面は重要だ。


 腐った死体と住んでいるオレが言うと説得力に欠けるかもしれないが。



「よし。そうと決まれば金を稼がないとな」



 幸い三時間も歩けば隣の町「イプケア」にたどり着く。


 そこには冒険者の集う「ギルド」がある。

 父さんは生前そこに勤めていたから間違いないはずだ。



 ならばまずは其処に行くのが良いだろう。

 冒険者登録して依頼をこなせば報酬が手に入る。


 自慢ではないがオレは修行しているときに多くのモンスターを倒してきたから実力はある方だと思う。

 簡単な依頼なら十分こなせるだろう。


「それに父さんの伝手もありそうだし……」


 うん。そっちは何とかなりそうだ。


 問題は……。


 オレはちらりと父さん(略)と母さん(略)を見る。

 もちろん細目で。



 ……あれを堂々と連れ歩くのはさすがにまずいよなぁ。



 少し慣れてきたオレでさえいまだにえずくほどの死臭に、見た目がこれじゃあ街の警備の人に止められるのがオチだろう。

 いや街にたどり着く前に冒険者に退治されそうである。


 それは困る。

 あれでもオレの両親なんだ。

 大切にしたい。


 とはいえそのまま連れて行くのは現実的ではないな。

 ならばおいていく……無理か。

 通りがかった旅人とかに見つかったら事件を疑われてしまう。


『異臭騒ぎ! 既に亡くなっていた人間の遺体が家の中に!?』


 なんて見出しで情報誌になど載りたくはない。



「いっそのこと漫画とかみたいにオレの影に収納とかできればいいのにな」


 オレはため息交じりに口にする。


 ……ん?


 両親がこちらをじっと見つめて……。

 え? こっちに来ている……?


 まさか……いやそんなまさか~。

 そんな都合のいいことがあるわけないよね~!



 と思っていた時期がオレにもありました。

 結論から言えば両親はシュルンと消えました。


 オレの影の上に立った途端に。

 それに、悪臭も全てが嘘のように消えうせた。


「いや、あるんかい!!!」


 オレは思わず突っ込んでしまった。

 そんなことできるんだったら鼻が慣れるまで地上に居てもらう必要もなかったじゃないか!!


 嘘だろ。ちゃんとそういうことは説明してくれよ……。


 オレは誰に言う訳でもなくため息をこぼすのだった。



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