第2話 好きに生きよ!
「ヴォッ!! っくっせぇ!! ……ヴワアアアアアアアアア!!!」
オレは叫んで目を覚ます。
目を開くと視界一杯に移る腐った死体(母さん)。
あ、間違った。
母さん(腐った死体)だった。
オレはベッドから転げ落ちてえずきながらそんなくだらないことを考えていた。
目覚めからR18G指定の画像を見せられてみろ。
あと臭いもな。
なんて最悪な目覚めなんだって思うだろう?
それだよ。今まさにそれが起こったんだよ。
同情するか? 同情するなら金を……いややめておこう。
コンプラに引っかかる。
「げっほごほ。ヴェェ! ……ちょっと母さん! それやめてって言ってるじゃんか!」
オレは今まさに俺を起こしに来た母さん(腐った死体)に目を向ける。
限りなく目を細めて、だが。
あのビジュアルどうにかできないものか。
何とか解決しないとオレの眼がそのうち糸目になってしまう。
糸目がデフォになってしまう。
オレのチャームポイントである大きなくりっとした目が失われてしまう。
出来ればそれは避けたいところだ。
「あ~」
「ヴワアアアア!! 起きた!! 起きたから!」
母さんはオレがしっかりと起きたかどうかを確認するようにふらふらと近寄ってくる。
そのたびにびちゃ……びちゃ……という音が聞こえてくるのもやめてほしい。
音だけで既にグロいのだ。
「もういいって! 外に行っててよ!」
母さん(腐った死体)にお願いして部屋を出て行ってもらう。
彼女が部屋を出た後にはなめくじが這った後のような茶色の水痕が続いている。
あれがなんの水痕なのか、考えたくない。
オレは思わず深いため息をついた。
そもそも何故母さん(腐った死体)に起こされる羽目になったかと言えば、両親を蘇らせた次の日にぽそりと「朝起きれないんだよな」とつぶやいてしまったからだ。
初日の「肉じゃが事件」の時と同じく、オレのつぶやきを聞いた母さん(略)が次の日に起こしに来たのだ。
オレは自分の言葉を悔いた。
オレの「
マスターたるオレの言葉は蘇らせた死者にとっては絶対。
どんな呟きにも従ってしまうのだ。
つまりなんでも言うこと聞かせられる。
まさに「死者の王」。
そんなチート能力があるんだったら、ゾンビ漫画みたいに美少女を蘇らせてきゃっきゃうふふ的な展開ができるじゃないかと思うだろ?
残念ながら現実はそう甘くはない。
何故かって?
オレが相手にするのは死者。
人間死んでしまえば皆腐った死体なのだ。
そんな中で美女もなにもあったものではない。
生前にどれほど可愛かろうが美人だろうが、死んでしまえばただの腐った死体だ。
おまいらそんな奴らを相手に盛れるのか?
オレには無理です。
まず臭いがやばい。
見た目もやばい。
普通に接するのも大変なのにそんなピンクな展開など期待できるわけがないだろう。
まあ何よりオレ自身が今世ではまだ十三歳だから、そんな展開など端から期待していないけどな。
それならアニメや漫画の様にアンデッドを率いて悪の組織の一員になってみればいいじゃないかって?
イヤだね。
実際使ってみたら臭いひっでえし見た目グロいし極力使いたくねえ。
力をポンポンと使わなければならない仕事はお断りだ。
「……はあ」
オレはまず換気しようと窓を開けた。
「ヴォェっくっせえ!!」
そしてすぐに閉めた。
自分の部屋よりも外の方が臭いがキツイ。
そういえば臭いがやばすぎるから普段は家の外に出ててもらうことにしたんだった。
すっかり忘れていた。
家の外の方が臭いってどうなんだ。
いくら田舎でぽつんと一軒家だと言っても数キロ先には他の民家がある。
そのうち苦情が来てしまうかもしれない。
「まあ、変わり者として有名なオレに苦情を言いに来られるような奴なんていないと思うけど」
親の葬儀以降ふさぎこんだかと思えば奇妙な修行をしだしたオレを、周囲が遠まきにしていたのは知っている。
ゲーム内のヴォンだったらどうかは分からないが、オレとしては別にそれをとがめるつもりなどない。
むしろまっとうな反応だとすら思う。
自分のことながらオレでも近づきたくない。
「オレは三十代の精神あるからそう思うのかもしれないがな」
日本社会の荒波にもまれたことのあるオレは、出る杭は打たれるという経験を今までに幾度となく体験してきた。
だから今のオレの異質さとか不気味さとかをどこか客観的に見られているわけだが、ゲーム内のヴォンはそんな世渡り能力など持ち合わせなかっただろう。
幼少期に両親を亡くし、周囲から孤立していった哀れな子供。
それがゲーム内のヴォンなのだから。
もしかしたらゲームの中のヴォンは周囲の環境が悪役へと育て上げたのかもしれない。
まあ敵キャラの過去なんてマニアックなもの作中には描かれていなかったからどうやって魔王軍に加わったのか分からないが。
全ては推測だった。
……そういえばゲーム内のヴォンはいつ「
オレは記憶を辿る。
「えーと確かゲーム内では勇者と魔王の戦闘が……え、ちょっと待て」
オレは机に紙とペンを用意して分かっていることを書きだす。
前世の記憶が戻ってすぐは両親を蘇らせることで頭がいっぱいでゲームのシナリオを気にする機会がなかった。
「よし。こんなところだろ」
オレは書き出した紙を見る。
其処には十三歳にしてはやけに整った字が箇条書きにされている。
『ストモン』のシナリオ
1,魔王と勇者が戦ったのが1178年(今が1173年だから後五年)
2,勇者の名前はプレイヤーが決められるから不明
3,ヴォンの性格は結構酷かった(口癖は「人間など全て呪ってやる」)
4,ヴォンは戦場で死体を集めて蘇らせていた
5,勇者の仲間が死ねばすぐさま術を掛けて自分の手下にするずる賢さを持っていたが物理攻撃には弱い
うん。こんなもんか。
……それにしてもヴォンに関してもだが「勇者」のことも一切分からないな。
とりあえず、勇者と魔王が激突するまであと五年。
原作のヴォンは十八歳だったということか。
それまでに力に目覚めたヴォンは魔王と関わるようになる、と。
オレはどうするかなぁ。
原作のヴォンみたいに人間が嫌いってわけでもないし……。
原作通りに動くのも、たぶんもうずれてしまっているはずだし。
「まあいっか。好きに生きよ!」
前世のオレは楽天的だった。
だからこそ復讐の鬼のような「ゲーム内のヴォン」の様にふるまうのは無理がある。
前世ではルールにばかり縛り付けられて生きていたのだからこちらでは好きに生きた所で罰は当たらないだろう。
オレは考えるのを放棄して生きたいように生きると決意した。
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