第5話 激突、近衛騎士!
私が目を覚ましたのは森を出るまで後一日という辺りでした。ドノバンとマーシナルさんが交代でおぶってくれたようです。私の巨体をよくも、ありがたいことです。
森を出さえすれば時々はイザベルさんの魔法で移動ができるので、来た時よりも早く帰れそうです。もう魔力の節約をあまりしなくてもよいからです。
その結果、私達は来た時よりも一週間は早く帰ることができました。その上、全員無事です。私の右腕はしばらくは使い物になりませんが治療すれば治る範囲です。問題ありません。
それから一年、私達四人『サウザンドニードル』はクタナツでトップの冒険者パーティーとして君臨していました。ノワールフォレストの森にも数回は行きました。
どんどん力を付けてきた私達はいよいよ森を突破するかと目されていた……そんな時でした。
クタナツのギルドで挑戦者募集との知らせを聞きました。何でも物好きな御仁が大型船で北を目指すと。そこに同乗する人員を募集していたのです。出航場所はサヌミチアニ、クタナツからかなり西です。
しかし私達にとっては嬉しい知らせでした。船に乗って北へ。ヘルデザ砂漠もノワールフォレストの森もスルーすることができるかも知れない。そして噂でしか聞いたことのないその先、山岳地帯へと到達できるかも知れないのです。
私達はその話に一も二もなく飛びつきました。馬車を手配しサヌミチアニへと一直線です。途中にいくつか街や村はありますが、宿泊は最小限に留め、とにかく早く到着することを目指しました。
およそ一週間かけて到着しました。かなり早いと言っていいでしょう。
サヌミチアニは港町というわけではありません。クタナツが属するフランティア領において比較的海に近く大きい街というだけです。たぶん海辺の村はいくつもあるでしょう。しかしギルドがあり代官が治めるクラスの街ともなると三つしかありません。だからその船もサヌミチアニに立ち寄ったのでしょう。
さて、陸よりも危険な海をわざわざ行こうとする奇特な御仁は一体どのような方なのでしょうね。まずはここのギルドに行ってみましょう。冒険者がよその街を訪れた際はまずギルドに顔を出すのがマナーですからね。
「こんにちは。クタナツの五等星サウザンドニードルです。大型船が来ているとの情報を聞きましてやって参りました。どなたか話の分かる方はいらっしゃいますか?」
「これはこれは。ようこそサヌミチアニへ。その件でしたら一週間後に船長さんが説明会を行うそうですよ。昼ぐらいにここで」
「なるほど。それはいい時に来たものです。ついでにおススメの宿はありますか?」
「お金にはたっぷり余裕がありそうですね。それなら『辺境の二番亭』がいいですよ。少々高いですが、五等星ほどのみなさんなら関係ないでしょう」
冒険者の等級は十から始まり一で終わります。駆け出しが十等星、八等星で一人前、六等星は中堅、四等星で凄腕、二等星で英雄、一等星で勇者と言われております。
四等星以上になるにはよほどの大物を倒すか、新たに領土を拓くか。実力だけでなく、運や知識まで必要になってきます。二百年前にフランティアを開拓した英雄、二等星冒険者ドリフタス・ド・フランティアのように。
ところで、ここサヌミチアニ周辺に強力な魔物はいません。足を伸ばして海に行くのもいいのですが、私もドノバンも海中では戦力が半減、いやもっとひどいでしょう。水中で動きにくいのは当然ですが、それが海中ともなると魔法まで使いずらくなるのです。きっとイザベルさんほどの魔法使いでも例外ではないでしょう。よって久しぶりの休暇といたしました。のんびりと過ごしつつ、日に数時間だけドノバンやマーシナルさんと組手をして過ごしました。
クタナツの五等星と知って私達に挑んでくる方々もおりました。しかし、残念なことに私やドノバンの相手になる方はいらっしゃいませんでした。特にドノバンの相手をされた方などは悲惨でした。負けたことが悔しかったのか「調子に乗るなよこのハゲが!」と言ってしまったのです。三十代を目前にして私もドノバンも頭髪には恵まれておりません……
たまたま虫の居所が悪かったことも災いし、彼はドノバンに頭皮ごと剥がされてしまいました。おいたわしいことです……
痛みにのたうち回る彼にドノバンは「お前の名前は今日からズルムケだぁ! それ以外の名を名乗ったら殺すからよぉ!」などと無慈悲なことを言う始末。見かねた私は治療院に連れて行ってあげました。費用は払いませんがね。他人の身体的特徴をあげつらうなど、許されることではありません。彼は命があっただけ儲けものです。
そして一週間、ついに運命の日がやってきました。サヌミチアニのギルドには冒険者が続々と集まってきました。とうとう建物に入りきれなくなり、結局訓練場を開放することになりました。
そして現れた船長なのですが、その名を聞いて絶句してしまいました。なぜかイザベルさんは彼の顔を見た瞬間に顔面蒼白となっていましたが。
「今日はよく集まってくれた。先に自己紹介をしておこう。俺の名はグレンウッド。グレンウッド・クリムゾン・ローランドだ。募集人員は十から二十名、こちらのやり方で選考する。」
ローランド……つまりは……王族。見たところ私やドノバンと同じく三十前でしょうか。確かグレンウッド様と言えば……王太子殿下!? そのような高貴なお方がなぜ……
いや、当然かも知れません……この国で船は貴重、よほどの大貴族でなければ所有すらできません。なにせ陸より魔物が多い大海原です。相当頑丈に作らなければすぐに海の藻屑と消えてしまうそうです。それだけに製作し、所有するだけでかなりの費用がかかるとか……
「選考方法は簡単だ! ここに五名の近衛騎士がいる。好きに攻撃するがいい。傷を付ければ合格だ。始めよ!」
御名を聞いて興奮覚めやらぬ冒険者達に、無情にも開始が宣言されました。剣を抜き、三百人はいる集団からの攻撃に対処する近衛騎士。見たところ刃引きの剣のようですが、危険度に変わりはないでしょう。こんな時は……
「ドノバン! マーシナルさん! こちらへ! イザベルさんを囲みますよ!」
激しく攻める必要はありません。数が減るまでは守っておきましょう。勝負はこれからです。
当然のことですが、守りながらも観察は欠かせません。王国最強のクタナツ騎士団に匹敵すると謳われる近衛騎士団。どちらも一騎当千との評判ですが……お点前拝見です。
さすがは近衛騎士です。気の遠くなるような基礎訓練に裏打ちされた確かな技術とスタミナ。面白みのない、それでも基本に忠実な剣法で互いにカバーし合い冒険者を打ち倒していきます。
そして戦況は終盤。倒れ臥す冒険者が八割、かすり傷を与えて合格を宣言される者が一割。そして残りは一割を切りました。そろそろでしょうか。
「よう、ジャック。先に行くぜ?」
ママラガンのリーダー、ボルテックスさんが一言断ってきました。
「どうぞお先に。」
彼らはバランスのよい六人組。私達より経験も豊富です。五人の近衛騎士のうち一人だけを集中的に狙うことでたちまち合格を決めてしまいました。自分達の負傷などお構いなしです。やはりパーティーに回復役がいるというのは便利なものですね。
そして場に立っているのは近衛騎士が四人、私達が四人だけとなりました。これは思わぬ幸運です。もしかして時と宿命の神、クロノスティン様のお導きでしょうか。
皆さん、行きますよ?
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