第8話『四條』

「やっぱE40部隊が全部やればいいと思うんだ?あれがいたら僕ら00Fなんていらないじゃん」

藍田が愚痴を垂らしながら裏路地から大通りをちらりと見る。防護服のようなものを着たいくつかの人間がそうでない人間たちを追い返している。その様子を見てから、赤羽に手をひらりとさせてこっちに来いと合図する。赤羽が近づいてきたのを確認してから歩き出す。

「よ。いずみ

防護服を着た一人に藍田が話しかけた。その声が聞こえたそれは、防護された頭を外し、長い髪と綺麗な白い肌を見せる。そして藍田の顔を捉えるとぱぁっと笑顔を見せた。

きたくん!」

走って藍田にがばっと抱き着く。背の高い女が背の低い男に抱き着いたことで、藍田が後ろに倒れる。赤羽は不思議そうにその様子を見つめている。

「ああ、ちょっとタンマ、泉。ほら、仕事が」

背の高い女は少しだけ固まってから、慌てたように腕を開いた。

「ごめんごめん!えっと、あなたが赤羽 東子さんですね!」

赤羽が答えようと口を開くよりも先に名乗り始める。

「私は九重ここのえ 泉って言います!赤煉瓦事務所のE40部隊のCチーム隊員です!」

「兼、僕の彼女ね」

表情豊かに腕を振り回しながら九重という女は名乗る。それに便乗でもするように、聞いてもいないことを藍田が話す。

「お前彼女作ったんだ。意外だね。かわいい子だし」

「でしょでしょー?僕の彼女かわいいでしょー」

「えへへー。北くんもかっこいいもん!」

また目の前でイチャつきはじめる。赤羽は、その様子にはもう既に飽きかけているところである。

「それで、赤羽ちゃんも00F部隊な感じ?」

「うん。ここしか拾ってくれるようなとこもなかったし」

藍田もその言葉に賛同するように、腕を組んでうんうんと頷いている。

「藍田はまさか入るとは思ってなかったんだけどな。何があったんだよお前に」

「広場恐怖症ってだけで何かあるだろ。訳アリ拾ってくれるだけありがたいと思うよ。上司はアレだけど」

「へぇ」

聞いておいて興味なさげに返事する。

「でも、僕がここに入ったから泉と出会えたんだよねー?僕の大好きな泉」

「えへへ!私も北くんのこと大好きだよー!」

目の前で興味もないやりとりを繰り広げられて赤羽は顔をしかめる。

「おい!みんなこっちに来い!」

遠くから男の怒鳴りが聞こえてくる。

「あ!行かなきゃ!じゃあまたあとでねー!」

九重は走って二人の前から去っていった。二人はビルの方へ走る。しかし、それはまた声が聞こえてきたことによって阻止される。

「失礼。汝、確か赤羽と言ったか」

赤羽が振り向く。そこにいた男はスーツ姿で佇んでいる。背は赤羽より少し高いぐらいで、不気味なほどに無表情である。

「何?知り合い?」

藍田もそっちを向く。

「いや……」

「何を言うか。我の遥か太古の先祖たちは、また、汝の遥か太古の先祖たちと知り合っているであろう」

赤羽と藍田は顔を見合わせた。そして、また男を見る。最初に口を開いたのは藍田だった。

「あー……ちょっといいです?」

「我は四條しじょう

「四條さん。どうやってここまで?確か、この辺りは通行止めになってるはずです」

「向かってくる者は全員破裂させた。それだけである」

「は?」

藍田は小さく声を漏らした。向かってくる者と言ったら、九重も所属するE40部隊。先程の怒鳴り。嫌なことを想像してしまったようだ。

「……ふざけるな!何をしたんだお前!」

「言ったであろう。二度は言わぬ」

怒りを露わにする藍田を横目に赤羽に近づく。変わらず表情は無に等しい。

「赤羽。我は汝に一目惚れした」

「は?」

「汝が好きである」

四條は赤羽の手をそっと取って、顔を近づけた。赤羽も藍田と同じように声を漏らした。

「お前!九重は無事なんだろうな!」

藍田の声がうるさいと、声の方を見ることもせず答える。

「鬱陶しい。上から来たが、女はいなかった」

藍田がはぁはぁと息を切らしている。それを聞けば、無事なのかと少し落ち着いたようだ。

「えっと……初対面だよね?一目惚れだったとしてすぐに告白なんて……」

「問題はあるか?」

四條が不思議そうに首を傾げる。こいつは頭がおかしい奴だと察した赤羽はゆっくり後退りする。

「何をしている?何が欲しいと言うのか?」

「何もいらないよ……何もらっても……」

四條は手を赤羽の手から離して、顎に手を置いて少しだけ考える素振りをした。そして手をだらんとおろした。

「理解した。では、我は行こう」

四條はふらーっと二人の後ろ側へ去って行った。

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