第6話『でぇと』

 大きなショッピングモール。3階建てでいくつもの店々が並ぶ。なぜここに赤羽と緑川が来たのか。それほど深い理由もなかった。


「緑ちゃん!お出かけしよ!」

「え?」

「行こう!」

「え、えー!?」


赤羽は半分、無理やり連れてきたことを申し訳なく思いながら緑川と手をつないでいる。緑川に目を向けると、顔を若干うつむかせているのが見えた。自分より背の低い少女に、赤羽は腰を折った。

「あー……強引に連れ出しちゃってごめんね……?」

「あ……だ、だ、大丈夫、です……」

緑川は顔を若干赤くしているが、赤羽には見えない。緑川は嬉しいと思っているが当然言い出せない。周りは騒がしい。

緑川を心配している赤羽。

赤羽を想うも何も言い出せない緑川。

遠くで後ろから見守る紫米。誰もいない部屋でひたすらに赤羽に通信しようとしている久作。

四者四様とでも言うべきか。紫米が着いてきたのは緑川のことを気にかけたためだった。緑川は少し思い出した。


「ねぇ緑川ちゃん。赤羽ちゃんのこと好きなんでしょ」


「いやなんでわかったの!?」

「どうしたの緑ちゃん!?」

緑川はつい叫んでしまった。赤羽はそれにビクッと肩を震わせた。緑川は肩をすぼめて縮こまって、出ない『が行』の代わりに頭をほんの少し下げた。

「……ご飯食べようか?」

緑川はこくっと頷く。二人は入り口からようやく歩き出した。赤羽が緑川を連れてここに来たのも紫米のせいだった。そうすれば機嫌が治ると紫米に言われたために赤羽は連れてきた。本当にそれが正しかったのか、よくわかっていない。赤羽は連れてきた、緑川は連れてこられた。なんだかギクシャクとした様子で、お出かけデートは始まった。口数は少なく、目線はバラバラである。ファミレスに着くが、数人人が並んでいて、外に出された椅子に二人座って待つことになった。二人は微妙な空気に包まれている。赤羽は心底、紫米のことを恨んでいる。数十分してからようやく店の中に入れた二人は席に座って注文をする。

「注文はお決まりでしょうか?」

「じゃあ私はこのスパゲッティとチョコレートのパフェを食後に。緑ちゃんは?」

緑川は赤羽と同じものを指さした。店員が注文を復唱してから戻っていく。また少し微妙な空気。

「……ねぇ、緑ちゃん」

「……」

ぴくっと肩を震わせた。

「私、昔ちょっとやんちゃしてたんだよねぇ」

急に話し出されたそれ。緑川は少し驚いた様子だったが、おとなしく相槌を打ちながら聞くことにした。だが、聞いていると面白くなってくる。少し恐ろしい面も見えるが、そんなこと些細なことだ。緑川の表情が笑みに変わる。少しだけ空気が和らいだ。

「緑ちゃん。次どこ行く?」

「えっと……洋服とか選んでみたい……」

緑川はにこりと笑って赤羽を見上げた。赤羽もそれに対して笑いかける。後ろで見守る紫米がガッツポーズをする。通信がつながらない久作。


洋服をいろいろ選んでいるうちに二人の関係は回復していたようだった。緑川が赤羽に対して少し恐れを持ってしまっていたのも、赤羽が怒ってしまって申し訳なくいたことも。

「次どこ行きたいー?」

「じゃあ、げ、げ、ゲームセンターとか……!」

袋を腕に下げた二人が店から出てくると、すれ違いざまに二つ、女の言葉を聞いた。

「塔は私らのことを何だと思って……」

「ただの駒さ」

赤羽はそれに反応してちらと振り向いた。緑川が袖を引っ張る。

「ど、どど、どう、どうしたんですか?」

「……なんでもない」

また正面を向くが、その表情は何か別のことに意識を引っ張られているような表情だった。ゲームセンターまで歩いている途中、誰かが後ろから赤羽の肩を叩いた。振り向く前に声を聞いた。

「ちょっと赤羽ちゃ~ん」

紫米だった。二人は体と顔を後ろへ向けた。

「ん、どうしたの?紫米ちゃん」

「えっとね~……仕事」

赤羽が目を細める。緑川は赤羽と紫米を交互に見ている。

「通信こなかったぞ」

「赤羽ちゃんが部屋に忘れてるからだよ~。それで、お前が伝えろって久作のやつに言われたから~」

「久作のやつ……」

緑川がその呼び方を復唱する。仮にも上司だろうと思いながら、緑川が口を開く。

「えっと……他の人に変わってもらうことって……」

「それはできない」

「久作が決めたことは絶対なんだ~」

赤羽と紫米が順番に言った。緑川は不思議に思ったが、これ以上追及するのはやめた。

「で、今回の留意点なんだけど~……別の事務所も狙ってるんだ~」

「……目星はついてる」

紫米がその名前を言った。

率いる、供物事務所」

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