無意味なことは――ないのかもしれない。

くすのきさくら

ちょっと気分の良い週末

 これはもう滝で良いだろう。月曜日の雨は出社が本当に嫌になる。


 今の俺は大自然の中に居るわけではなく。毎日使っている駅に居るのだが。目の前は水のカーテン。大粒の雨が先ほどから降っている。

 そんな中俺はホームの先端で、電車待ちをしているところだ。家から駅まではバス。そして職場までが電車で、今は乗り換え待ち中だ。

 バスは道路状況で遅れる。特に今日みたいな悪天候時はかなり遅れるため駅での待ち時間が長くなる。でも、1つ前の電車は学生が多いため。あまり無理をして乗ろうとは思ってないので、予定通りといえば予定通りなんだがな――って、そんなことより先ほどから俺はホームの1点を見つめている。


 たまたま気が付いたのだが。ちょうどホーム屋根が終わり電車の最後尾のドアが開くあたりに、手のひらサイズのハリネズミのぬいぐるみが落ちているからだ。

 俺以外の人も気が付いているだろうが。みんな見て見ぬふりみたいだ。

 先ほどから小さなぬいぐるみは雨に打たれ続けている。多分紐が切れたのだろう。ハリネズミの頭部近くにひょろっとした紐。あと星の飾りが見えている。

 ちなみに俺も普通なら無視していただろう――でもどうしてもハリネズミは無視できなかった。

 いや、決して俺がハリネズミラブとか言うことではない。

 そりゃかわいいからさ。多少靴下とか。ネクタイとか。文房具とかさ。ハリネズミだけど――それくらいだし。


 電車が駅に来るまであと3分。俺が拾ったところで、持ち主に戻る可能性は――低いだろう。でも――見捨てれなかった。無意味なことかもしれないが俺はずぶ濡れのハリネズミを手に取った。

 落し物は――警察にだが。この場合は駅員さんか。


 俺は周りの視線を感じつつも改札の方に戻り。『――すみません』と、改札近くにいた駅員さんに届ける。

 ちなみに駅員さんちょっと戸惑った様子だったが――いいか。とにかく、気になったので俺は拾って届けただけ。もしかしたら持ち主が現れず処分という可能性もあるが――。


 ◆


 そんな無駄なことかもしれないことをした週の金曜日。疲れがピークだが今日も出社の為俺はいつもの駅までやってきたところだ。

 今日は快晴。それもあってかバスは定刻通り。1本早い電車に間に合った。


「あれ?そのぬいぐるみ失くしたんじゃなかったの?」

「それがさ。昨日駅の落し物のところにあったんだよー。誰か拾ってくれたみたいで。よかったー」


 ふと、前を歩いている学生の会話が聞こえてきた。

 俺が視線を上げると――星の飾りをつけた手のひらサイズのぬいぐるみが通学カバンにしっかりと結び付けられ揺れていた。


「……」


 その日の俺。ちょっとだけ。ほんのちょっとだが。金曜日にしては足取り軽く出社したのだった。


(了)

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無意味なことは――ないのかもしれない。 くすのきさくら @yu24meteora

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