第9話
招待状をいただいて数日、私は2年ぶりに帰国して国王陛下に正式にご挨拶を済ませてルーテン公爵家の屋敷にいた。
両親とテオ兄様との再会、そしてヴァルと並ぶ姿を見せた。ヴァルもすっかり「ヴァルンフリート王子」らしいしなやかな身のこなしになったけれど、久しぶりにテオ兄様と手合わせした時は昔から変わらない「ヴァル」で、少し嬉しかったのはここだけの話。
そして驚いたのは、テオ兄様も婚約していた事。
幼い頃から忙しくしていて婚約も考えられなかったテオ兄様のお相手は男爵令嬢で、当主である男爵様と後妻と義妹に虐げられていたのを助けたのがきっかけだったそう。なおご実家は別件の罪も重なった事で爵位返上からの国外追放で、海を隔てた友好国へ渡ったらしい。
今は王妃様の侍女として働いているそうだけど、いずれは学んだ事を活かしてロザリア様──王子妃の侍女長になる予定なんだとか。お義姉様は魔力が多く結界魔法に長けているそうなので、護衛としても優秀だそう。白銀色の髪と瞳は北方領地の朝日にきらめく雪山のようで、微笑む姿は綺麗だった。
そんな家族の報告をいくつも済ませ、ベッドの数の関係で私とヴァルは私の部屋のベッドで眠る事になって。まぁ、まだ婚約という身の上なのでヴァルの方から「俺達が結婚するまでは手を出さない」と言われているのだけど……大切にされてるからこそ、早くキス以上の事したいなと思うのは子供なのかな。
ヴァルの隣で悶々としながら眠った、翌朝。私は紺の美しい布に裾に金色の星をイメージした刺繍がさりげなく施されたドレス、下の方で髪をまとめた姿で玄関へ向かう。
「あれ、お母様だけ?」
「ええ。テオは向こうでエリサさんとお会いするのですって。旦那様はヴァルと何かお話してるわ」
「着替えは済んでるのね……最初にお母様に見せるなんて、ちょっと寂しいわ」
「そう? でもそのドレスいいわ、袖になってるレース生地が素敵。殿下の結婚式という祝いでも露出させたくないってヴァルが指示したのが目に浮かぶようだわ」
くすくす、と笑うお母様に思わず顔が熱くなる。確かに、ドレスのデザインで二の腕を出すなと言ったのはヴァルだけども。
──今日はルドルフ殿下とロザリア様の結婚式。王国では祝い事のドレスは肩を隠したりドレスの丈もガーデンパーティーでも膝以下までというのがマナーだけど、私のドレスは首と肘まで隠れるくらいの袖がついてる。しかも所々銀色が入っているのでさりげなくキラキラしている連合王国製のものだ。
「れ、連合王国の自慢の素材だからよ、きっと……今度、レース生地をいくらかお母様宛てに贈るわ」
「ふふ、じゃあ黙っていてあげるわね」
お願いします、と軽く頭を下げる。こんなやりとりなくても贈るつもりだったけどお母様楽しそうだからいっか、なんて考えているとお父様がやってきた。
お父様は「待たせてごめんねぇ」とお母様に腕を差し出して馬車までエスコートしている。夫婦仲の良い、私とテオ兄様の理想の夫婦像だ。
そんな両親を見ていると、ヴァルが声をかけてくれたのでその腕にそっと寄り添った。同じ布に同じデザインの刺繍が施された礼服姿のヴァルは、夜を纏っているようで素敵だなと思いながら。
城へと向かうお父様達公爵家の馬車の隣、私達の連合王国王家の馬車に隣り合って座る。と、ヴァルが微笑んだ。
「アリーシャ、そのドレス似合うな。見立て通りだ」
「綺麗?」
「ああ、でも少し足りないな」
そう言って私の耳に触れたかと思うと、パチリという音と共にちょっとした重さを感じた。私が驚いてそれに触れているともう片方の耳にも何か付けられた。
「ヴァル……イヤリング付けたの?」
「見るか?」
小さな手鏡を渡されて、自分の耳を見やる。
満月のような琥珀から雫が垂れるようにアクアマリンが揺れる、小ぶりのイヤリング。私とヴァルの瞳がひとつになったそれは、よく見るとヴァルの狼耳のカフスと同じデザインだ。
「魔力を通すと防御魔法が発動する仕組みになってる、万が一の時使ってくれ」
「お守りなの? お揃いの付けたかった、じゃなく?」
「……両方だよ」
私は抱き寄せられて額にキスされる。こういう時は恥ずかしい時だって分かっている今、胸の温かさとヴァルにされた事が嬉しくて頬が緩んで仕方なかった。
婚約者だからこれは、許される、よね?
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