第7話
「先代、様。それは陛下の、」
「もう私や陛下の事も、周りに敬語を使う事もなさらなくて良いのです。幻獣様の魔力も王族に伝わる封印の魔法を使う事で制御されている今、第二王子の弟君が立太子されるまで王太子という地位にいて欲しい、とここに記載がございます」
お爺様はその封筒をおもむろに立ち上がったヴァルに渡して静かに笑っていた。
確かにその封筒には連合王国の王にしか認められない紋の封蝋があり、内容を読むヴァルも文字などを見て疑う様子はない。多分、本物で間違いなさそう。
でも、きっと私は王太子妃になれない。他国の、ましてや留学しに来ただけの婚約の波に乗り遅れた公爵令嬢。
また私は選ばれない……そう息をついてしまって肩を落とす。するとそんな肩を優しく、お婆様が包むように触れてくださった。
「大丈夫よ、アリーシャ。大丈夫なの」
「お婆様……? それは一体、」
「──たった2年で、これをやれってのかあの親父は!」
ヴァルは信じられない、と声を上げた。思わず私達はヴァルの顔を見てしまったけど、ヴァルは言葉を続ける。
「そもそも俺は王子として教育は受けていないのに各領地を見て学べなんざ無理な話だ! 王子教育諸々だけで何年分あると思って……それにアリーシャにも王子妃教育って、無茶苦茶な!」
グルル、とまるで今にもお爺様に噛みつきそうな怒りで手紙を握るヴァルに、お爺様はひとつ息をついた。
手紙には「第二王子が成人するまで残り10年近くかかるけど国王が万が一の時の後継とするには若過ぎるので、彼が立太子出来る歳になるまではヴァルが王太子でいて欲しいので放棄の件は譲れない」「2年で王子教育と領地を見て回り、お披露目をする事。これが出来ればどんな女性と結婚しても良い。大切な家族として迎えるから、女性にも同じ試練を与える」という、現状と提案の内容みたいだった。
「落ち着けヴァルンフリート、その辺りは問題ない。お前は学院に通う前に我が家で学んでいたな? アレは陛下が我が領地に派遣した教師で、あの学びこそ王子教育だ。実際、どこの使いに出しても礼儀に事欠かなかっただろう」
気付かなかったのか、と言わんばかりのお爺様に固まるヴァル。聞かされないまま勉強に励んでいたのだと、思う。
それに、私も彼に改めて説明しないといけない、と思う。
「私……王国のではあるけれど、一応王子殿下の婚約者候補として他の同い年のご令嬢よりは高度な教育を受けていたの。それこそ、殿下に見初められたら王子妃として教育を受けられるように」
連合王国のマナーや法律は頭に入っているし、王族や上位貴族として必要な知識はもちろんある。専門的なものや連合王国の各領地についての詳しい知識が分からないだけ。
だからこそ、王子妃教育は簡単な問題ではないと分かっているけど。
「何より、ヴァルと一緒にいる為に必要な試練だっていうのなら……乗り越えてみせるわ」
私はまっすぐヴァルを見つめた。例え2年以内に間に合わないとしても、最後までやり切ってみせる──そう目で訴える。
ややあって、ヴァルは息をついた。
「──分かった。ただし、互いに無理をしない。これが条件だ。そう陛下に伝えてください」
お爺様にも伝えて、ヴァルは私に微笑んだ。
「アリーシャ、ありがとう」
「ヴァルこそ、わがまま聞いてくれてありがとう」
そうして私達は互いのために頑張る事を誓った。
大好きな人の、ために。
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