KAC20232 猫と、ぬいぐるみと、私
日々菜 夕
猫と、ぬいぐるみと、私
私は、たまにしか本の売れないお店で働いている。
そのおかげで時間を持て余すことが珍しくない。
普段は、私の膝の上でまぁるくなった猫。
みゃーこをもふりながらネット小説を読み漁っているのだが。
今日のみゃーこは遊んでほしいらしく、
「ミャーミャー」
鳴きながら前足を伸ばして私の足をポンポンしてくる。
その、みゃーこの下には小さなクマのぬいぐるみ。
なぜかみゃーこは、このクマのぬいぐるみがお気に入り。
小さかった頃なんて、抱っこして寝ていたくらいだ。
それが今では、完全におもちゃと化している。
「はいはい、お客さんが来るまでなんだからね……」
そう言いながらも、クマのぬいぐるみを拾ってポーンと投げる。
すると、首輪に付いた鈴をチリンチリンと鳴らしながら、クマのぬいぐるみめがけてまっしぐらに走っていくみゃーこ。
そして、獲物でも取ってきたみたいなどや顔でクマのぬいぐるみを咥えて持ってくる。
なにがそんなに面白いのか分からないが、だいぶボロくなったクマのぬいぐるみを繰り返して廊下に投げるのも仕事のうちとなっているのはどうなんだろうか?
しかし、甘ったるい声で、
「ミャーミャー」
鳴かれながら、足をポンポンされると、ついつい付き合ってあげたくなってしまうのだからしかたがない。
そう、これはしかたがないのである。
けっして、猫の可愛さに負けて仕事を怠けているわけではないのである。
よし!
自己正当化完了!
後は、河上君が来るまでみゃーこと遊んでいよう。
どうせお客さんなんて滅多に来ないんだから。
しばらくして予定時刻より少し前に、カランカラ~ンと、扉を開ける音がする。
河上君かな?
そう思って、視線をみゃーこから店の入り口に向けると。
やっぱり、河上君だった。
「こんにちわ。
「ご来店ありがとうございます。ちょっと待っててね」
そう言いながら、なるべく廊下の奥の方に向かってクマのぬいぐるみを投げる。
それをめがけて走るみゃーこ。
みゃーこが戻って来る前にお会計を済まそうと、手早く注文された本を置く棚から料理関連の専門書を取り出し会計を済ます。
「ミャーミャー」
可愛い声で鳴きながら私の足をポンポンするみゃーこ。
その様子を温かい目で見る河上君。
「なんか、犬みたいだね」
「そうなの、なぜかこうやって遊ぶのが好きみたいで」
そう言いながらも、クマのぬいぐるみをポーンと投げる。
しばらくして戻ってきたみゃーこは咥えていたクマのぬいぐるみを床に置いて、
「ミャーミャー」
と、猫撫で声。
「ねえ? 音無さん。それってボクが投げても同じ反応するのかな?」
「うん、たぶん誰がやっても同じだと思うけど……」
「じゃぁ、試しにやらせてもらってもいいかな?」
「え? あ、うん、いいけど……」
ちょっと動揺しちゃったけど許容範囲。
落ち着け私!
河上君には、カウンターの中に入ってもらい、クマのぬいぐるみを投げてもらった。
すると、予定通りにクマのぬいぐるみを目指して走るみゃーこ。
そして――
しばらくするとクマのぬいぐるみを咥えたみゃーこが戻って来て、
「ミャーミャー」
鳴きながら、河上君の足をポンポン。
それに、気を良くした河上君は再びクマのぬいぐるみをポーンと投げる。
「あはは、なんかいいね! これ!」
「でしょう!」
「うん! すっごく面白いよ!」
こうして赤字経営を続けるお店の一日が終わっていく――
せっかく来たのだからと、祖父母に誘われるかたちで河上君と一緒に夕飯を食べる事になった。
河上君も楽しんでくれたみたいだし。
私も楽しかったし。
祖父母の機嫌も良いし。
今日のところは、みゃーこグッジョブと言っておこう。
おしまい
KAC20232 猫と、ぬいぐるみと、私 日々菜 夕 @nekoya2021
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