さくら meets ゆうと in ぬいぐるみ

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「あっ、シマエナガちゃんだ。かわいい!」

 まずい、まずい、まずい。幼女に、目をつけられた。こちらは、必死に綿のつまった体をはねさせる。ああ、無念。私は、今や小さなてのひらの中。もう、このまま寝落ちしたい。

「あれ? あなたぬいぐるみなの?」

 蒼い瞳と目が合う。

『いっそ、仕事を手伝ってもらってはどうか』

 上司は、簡単に言う。

『第一、ぬいぐるみがひとりでに歩いていたら奇妙だろうに』

『いや、交通費ケチったの、あなたですよね? 人形だけ送れば安上がりだとか言って』

 主人は、方舘ほうかたの屋敷で寝ている私の頬を思いきりつねる。

『ごめんなさい…』

 涙が出てきた。

 鳥の身体を、ひとさしゆびでつつかれる。

「おーい」

「はじめまして。小さなおじょうさん。私は、ゆうとです」

「私は、さくらです」

 ほほえまれる。

「この近くにある、枯れた梅の木を知りませんか?」

「神社の木?」

 小首を傾げる。

「そうです。私を連れて行ってください」

「はあい」

 てくてく歩く。

「あなたは、ぬいぐるみなのに、どうしておしゃべりできるの?」

「えっ? うーんと…」

 私の家柄がどうとか説明されても、興味ないだろうし…。

「お仕事だからです」

「ふうん。そっかあ…」

 無言。無言。無言。

 神社に到着。

「ほら、梅の木だよ」

「ありがとう」

 見事に、枯れている。てのひらから、枝にとびうつる。羽のすきまから、手製の梅の花をとりだす。枝の分かれ目に置く。

「ちょうちょ結びできますか?」

「うーん、自信ないけど…」

「だったら、いい練習になりますよ。花を枝に結びつけてください」

 一人と一匹で、もくもくと作業する。

「できた! お花咲いたよ」

 さくらが、ほほ笑む。

「方舘の血を、あなたに。どうかお目覚めください」

 布地の花が、解けて、一瞬、血液だけで形作られた花となる。次の瞬間には、空間を満たす花弁。血の香り。

 そして。

 ふくよかな梅の香り。

「わあい、春が来た!」

 ばんざいして、喜んでいる。

「ああ、ここにも春が来ましたね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さくら meets ゆうと in ぬいぐるみ 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ