第46話:告白と備え
マギスが臨時でリンカーの指導を行っている頃、エミリーはヒースと一緒に反対側の森にやってきていた。
ニアに見られでもしたら止められていただろうが、二人の実力であれば気配を消してアクシアの外に出るのは簡単なことだった。
「あ、あの、姉御? 俺を呼び出して、何をするんすか?」
びくびくしているヒースを横目に、エミリーは行動を共にするなら伝えなければならないことを告げることにした。
「お主、我の魔力にビビっていたと言っておったのう?」
「は、はいっす。姉御の魔力はその、なんというか、恐怖を煽るような、そんな感じを受けるっす」
アクシアで共に生活していく中で、ヒースは徐々にではあるがエミリーの魔力に慣れてきている。
それでも二人きりの状態ではまだ緊張してしまい、その緊張から恐怖を煽られてしまっていた。
「まったく、さっさと慣れてもらわねば困るぞ」
「す、すんませんっす」
「それより、今日は我のことを教えておこうと思ってな、ここまで来てもらった」
「い、家では話せないことなんすか?」
「当然じゃ。何せ我は――魔王じゃからな」
「……………………ま、魔王っすかああああぁぁっ!?」
さらりと魔王だと暴露されてしまい、ヒースは一瞬だが思考が停止してしまい、再起動と同時に叫んでいた。
「うむ。おそらくだが、魔王特有の魔力のせいでお主は恐怖を煽られて……って、どうしたのだ?」
「……ど、どうしたもこうしたもないっすよ! な、なんで魔王様がこんなところにいるんすか!」
「なんでって……もしや、我が勇者パーティに倒されたことを知らんのか?」
「知らないっすよ! ってか魔王様、生きているじゃないっすか!」
ヒースの言うことも間違いではない。倒されたと言っていながら、エミリーは彼の目の前に立っているのだ。
そもそも、未開地は人族も魔族も足を踏み入れていないから未開地なのであり、魔王が倒されたという情報が届いていないのも当然のことだった。
「あれ? でも、兄貴は人族っすよね? どうして人族と魔王様が一緒に行動しているんすか?」
「それはマギスが我を倒した男だからじゃな」
「……えっ?」
「マギスの本当の名前はラクス・マギラエン。勇者パーティの一員として行動していた英雄の一人じゃよ」
「…………ええええぇぇっ!? ど、どういうことっすかああああぁぁああぁぁっ!!」
いろいろな情報が一気に頭の中に入ってきてしまい、ヒースは完全に混乱してしまう。
「マギスだけが我が生きていることに気づき、認め、迎えに来てくれた。だから行動を共にしているのだ」
「認め、迎えにっすか?」
「うむ。だが、重要なのはそこではない。ヒースよ、我らが名前を変えていること、絶対に他の者に悟られてはならんぞ? お主も似たような境遇なのだからな」
情報を先に伝えたのは、緊急時に素早い対応ができるようにするためだ。
アクシアは世間一般的に見れば未開地に位置している。
ヒースの正体であるベヒモスが縄張りを持っていたように、もっと奥に行けばさらに強い魔獣がいてもおかしくはないのだ。
「我もマギスも、アクシアに危機が迫ればお主を頼ることになるだろう。その時に動きが遅くなるのを恐れ、今ここで正体を明かしたのだ」
「……」
「……聞いておるのか、ヒースよ!」
「わっ! 聞いているっす! 任せてほしいっす!」
「まったく、本当によろしく頼むぞ」
「はいっす!」
最後は元気よく返事をしたヒースを見て、エミリーは小さく苦笑を浮かべた。
(それに……強い相手は、未開地だけというわけではなさそうじゃからのう)
そんなことを考えながら、エミリーは遠くの空に視線を向けたのだった。
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