第45話:リンカーとの魔獣狩り

 森に出たマギスとリンカーは、早速魔獣を見つけていた。


「それじゃあリンカーさん、お願いできますか?」

「……なあ、旦那。俺にはそんな丁寧にしゃべらなくていいぜ?」


 大剣を構えながらリンカーがそう口にすると、マギスは苦笑しながら答えた。


「いえ、さすがに年上ですし」

「その年上がそう言ってんだ、いいだろう? 俺も固い喋り方をされるのは苦手なんだよ」


 リンカーは頭をガシガシと掻きながらそう口にすると、意識を魔獣の方へ向けた。


「まあ、考えておいてくれ」

「……分かったよ、リンカーさん」

「さん付けもなしな」

「……了解だよ、リンカー」


 最後にはマギスが折れて肩を竦めながらそう口にすると、リンカーは魔獣を睨みつけながらニヤリと笑った。


「そんじゃまあ、いってくるぜ!」


 茂みから飛び出したリンカーの気配に気づいた魔獣が振り返る。

 それでもリンカーは止まることなく前進を続け、大剣を上段に構えた。


「どらああああっ!」


 振り下ろされた大剣を見て大きく飛び退いたソードウルフ。

 大剣は地面を穿ち、砂利が激しく飛び散っていく。

 着地したソードウルフは一転して攻勢に出ると、体毛を高質化させてリンカーへ突っ込んできた。


「はっ! 上等だ!」


 剣先が地面に接している状態で体を捻り、回転を加えた横薙ぎを放つ。

 大剣がソードウルフを捉えると、高質化した体毛が砕け散り、そのまま上下に斬り裂いた。


「うっし! 終わりだ!」


 左手で握りこぶしを作ったリンカーだったが、すぐ後ろの茂みから音がした。


『ガルアアアアッ!』


 隠れていたソードウルフが飛び出し、リンカーへと襲い掛かる。


「なんてなあっ!」


 リンカーも隠れているソードウルフの存在に気づいていた。

 あえて片手を大剣から離して隙を作り、飛び出してくるのを待っていたのだ。

 右腕をしならせながら大剣が振り抜かれ、ソードウルフの頭蓋は一撃で砕け散り、そのまま地面に叩きつけられる。

 リンカーの戦い方を見ていたマギスは、彼の実力を高く評価したものの、その表情は苦笑を浮かべていた。


「今度こそ終わりだな! どうだった、マギスの旦那!」

「相手を倒すという一点だけで見れば問題なし。でも、この状態だと素材にも、食糧にもならないかなぁ」


 最初の個体は上下に斬り裂かれており、皮も肉もずたずたになっている。

 二匹目に至っては言わずもがな、とても直視できる状態ではなかった。


「あー……ま、まあ、俺は自警団だからな! 魔獣を倒すのが仕事よ!」

「とはいえ、リンカーたちが魔獣狩りをすることもあるだろう? 次の魔獣は丁寧に倒すことを心がけてやってみようか」

「……マジか?」

「うん、マジ。大丈夫、同時に気になった点も伝えていくから」

「……気になった点だけでもいいんだぜ?」

「ほら、次に行くよ。指導に関しては、遠慮しないからね?」


 やや表情を引きつらせているリンカーに対して、マギスは満面の笑みを浮かべながら近づいていく。


「……だぁー、分かったよ! こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ」

「どんなつもりだったのかな? まあ、いいけどね」


 頭をガシガシと掻きながら呟いたリンカーに、マギスは苦笑しながらそう答えた。


「それはそうと、指導だね。リンカーは初速は早いのに、どうして大振りになってしまうんだい?」

「あん? そうだなぁ……その方が一撃で仕留めることができるからだな。時間を掛けることほど無駄なもんはねぇ」

「そうかな? 時間を掛けるべき時もあると思うけど……まあ、それはさておきだ。リンカーほどの力があれば、大振りじゃなくても、ある程度の相手なら一撃で仕留めることができるんじゃないのかい?」

「まあ、そうなんだけどなぁ。昔の癖がどうにも抜けねえんだよ」


 リンカーは常に全力で戦い続けてきた。

 彼の性格もあるが、そうしなければ生き残れないほどの強敵と戦い続けてきたからだ。

 今となっては実力もついて全力でなくても倒せる相手は増えているが、昔の癖で常に全力を出すようになっていた。


「次の相手には肩の力を抜いたらいい、その方が鋭い一撃を放てるはずさ」

「たったそれだけで変わるもんかねぇ?」

「変わるよ。リンカーにはそれだけの実力があるからね」

「……まあ、そこまで言われちまったら、やってみるしかねぇか?」


 困惑顔のリンカーだったが、進んだ先で再びソードウルフを見つけたこともあり、肩の力を抜いて大剣を構えた。


(……なんだ? 嫌に剣が軽く感じるなぁ)


 リンカーは全力で大剣を振るあまり、無駄な力が入っていた。

 肩の力を抜くことで無駄な力もなくなり、大剣を持つのに適した力で構えることができたのだ。


「……なるほどね。これなら確かに――初撃を当てられるぜ!」


 地面を蹴りつけ、加速する。その動きですら無駄が省かれている。

 ソードウルフが顔を上げた時にはすでにリンカーの間合いに入っていた。


「どらああああっ!」


 こうしてリンカーは三三歳にして、さらなる強さを身に着けたのだった。

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