第16話 想い人との1日⑥ side 九条玲奈
「九条さん、洗濯ありがとう。」
彼の声が聞こえてきて、私は彼の方へ向かった。
「いえ、ただの先程のお詫びなので。」
私はそう答えたが、今はそんなことよりも服の感想が聞きたいと思い、自分でも分かるくらい挙動がおかしくなっていた。
「…あの、…この服、に、似合ってますかね…。」
「うん、すごく似合ってると思う。」
私が言うと、さすがに彼も気づいたらしく、すぐ微笑んでそう返してくれた。
私はその言葉が嬉しく、自分でも頬が緩みすぎていることがわかった。
私はその気持ちを吐き出すように口が動いた。
「そうですか。それなら良かったです。」
彼の微笑みが頭に残っていて、直そうとしても頬が緩んでしまう。
少し緩んだままであるが、本題に入ることにした。
「斉藤くん、いつもコンビニのお弁当を食べているのですか。」
そういうと彼は図星だったようで、体を硬直させている。
彼がこんな感じになることは中々ないので見ていて、新たな一面が見えて嬉しく感じる部分もあり、微笑ましく感じることもある。
だが、そんな彼を見ていても話が進まないので、少し名残惜しいが話を進める。
「やっぱりそうなんですね。ゴミを捨てようと思ったら、中に弁当のゴミがたくさん見えてますからね…。」
「……。」
彼はあまり否定できないのか、目を逸らして黙っている。
私はそんなことを言ったが、内心は計画通りと心の中は凄く喜ぶ。
その計画を遂行するために、まず彼の正面に立つ。
彼は少しびっくりしたみたいだが、意識がこちらに向いたので良かった。
少し料理以外にも思い付いたが、今は気にせず話すことにした。
「んー、じゃあ今日は私が斉藤くんの晩ご飯作ってもよろしいですか。」
「ヘェ?」
彼は予想していなかったのか、素っ頓狂な声をあげる。
そのまま少し押してみると、彼は少し戸惑っていたが承諾してくれた。
彼に私の手料理を作ることができることがとても嬉しく、心の中でガッツポーズを作った。
「では、お作りしますね。」
作れることに嬉しく感じていたが、彼の家に食材がないのではないかということに気づき、一応聞いてみる。
「あ、でも食材って買ってないですよね。」
「…まぁ…、そうだな…。」
彼は少し申し訳なさそうであるが、作れないならしょうがないと思うので、私としてはあまり気にしてほしくはない。
私は彼を不安にさせないように、声をかけた。
「では、私の家から持ってきますので、少し待っていてください。」
私はそう言って、自宅に戻ることにした。
私は今、自宅のキッチンにいる。
「んー…、どうしましょう…。」
彼のために作る夕飯となると、全て一から作りたいが、お味噌汁は出汁からとって作ると時間がかかってしまう。
朝、いつも自分用で作っているものを温めなおす。
それでもいいのだが、せっかく彼に食べてもらえるので、しっかり作ってあげたい。
「でも、彼の家に長い間お邪魔することは良くないですしね…。」
10分程なやみに悩んだ末、時間をかけないようにするために朝作ったものを持っていくことにした。
そして、常備しているエコバッグに必要なものを詰めて、彼の家にまたお邪魔しに行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます