第14話 想い人との1日④ side 九条玲奈
彼の驚いた顔が少し不思議に思ったが、まずは彼が風邪を引かないようにしなければならない。
「はい、着きました。」
私がそう言うと、彼はますます驚いた表情に変わっていった。
どうしたのだろうと思っていると、彼が話し始めた。
「えっ…。ここって九条さんが住んでるマンションなの?」
「はい、そうですよ。」
私は彼がその質問をする意図が分からなくて、少し混乱しているが、とりあえずもう一度同じことを言う。
すると彼の驚きの色がまた深くなっていく。
流石に驚かれるだけでは分からないので、素直に聞いてみることにした。
「あの、どうかなさいましたか。」
私が顔を覗き込みながら聞いたせいか、彼は顔を赤くさせながら、私から目をそらす。
だが、彼はすぐにこちらに向きなおって、なにか決心したかのような面持ちで話してくる。
「九条さんはこのマンション住んでるでしょ。実は…、俺もここに住んでるんだよね…。」
(えっ、そうなんですか。まさかこんなところで
一緒になれるとは思いませんよ…)
私は驚きもしたが、やっぱり嬉しさが込み上げてくる。
私を見てタジタジになっている彼を気にせず歩くスピードをあげてマンション内に入っていく。
(でも、彼の部屋を聞かないと、これからお邪魔したいときにいけませんね…。)
私はそう思い、訊ねてみることにした。
「斉藤くんの部屋はどこですか?」
訊かれるとは思っていなかったのか、少し驚いているようだが、すぐにいつもどおりに戻った。
「え…、えっと、俺の部屋は1階だな。」
(え、うそっ。私と同じ階です。)
私は彼と同じマンションの同じ階に住んでいることがとても嬉しくて、そのまま部屋番号まで聞いてしまった。
「え、本当ですか!、私も1階なんですよね。105号室です。斉藤くんはどこですか。」
「俺は102号室。」
「分かりました。」
そして私はそのまま伝えられた番号の部屋の前まで来た。
「じゃあ、九条さん。」
「ん、どういうことですか。」
彼は私が部屋の前まで送ってもらったと思っているらしいが、私としては今日は助けてもらった恩を返そうと思っているので、それだけで帰るわけにはいかない。
「部屋の鍵開けてもらってもいいですか。」
そういう私に困惑しながらも、鍵の施錠を外してくれた。
「では、お邪魔しますね。」
「え!?」
私がそう言って、彼と一緒に入っていくと、彼はさっきよりも驚いた様子で私を見ていた。
「へぇ、部屋はしっかり綺麗にしているのですね。」
玄関を入って、許可をもらってリビングに入っていくと、ものすごく綺麗に整頓された部屋が見えた。
床はフローリングで緑色のソファが置かれている。 その前には、ローテーブル、向かい側には、テレビがあるという内装。
少し質素ではあるが、綺麗な内装にびっくりした。
そして彼の家に来た理由を説明しようとし、彼の顔を見ると、少しだけホッとしている表情が見えた。
少し不思議に思ったが、気にせずそのまま話す。
「斉藤くん、今日はご迷惑をおかけしてしまったので…。なんというかですね…、汚してしまった服は洗っておきますので、お風呂に入ってきてください。」
「えぇ、でも九条さんはどうすんの。さすがに俺が勝手にしたことなのに、ここまでしてもらうのはさすがに悪い気がするしさ…。」
彼は少し申し訳なさそうにしているが、私がしたいことなので、無理やりお風呂場に押し込む。
「私のことは気にせず入ってきてください。」
少し強めに言うと、彼はしぶしぶお風呂に入ってくれた。
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