第13話 想い人との1日③ side 九条玲奈

「じゃ、そろそろ行きますか。」


「は、はい。お願いします…。」


そういうと彼は私の腕をとり、自分の肩に巻いた。

一緒に帰ってくれるといってもやはり先程と同じように支えてもらいながらになることは分かっていたが、こんなにもくっつかれると流石に恥ずかしい。 そして歩き始めたときにこっそり彼の顔を見ていると、彼も顔を赤らめていて、そのことに私は少し安堵した。










歩き始めたときは話すことがなく、2人とも無言だった。

話さないと距離を詰めることができないと思い、私から話しかけようとしたとき、彼から話しかけてくれた。


「そういや、今日の数学のやつ、凄かったな。なんであんなすぐに出たんだ?」


彼は今日の数学の授業のことを話してきた。

私はその質問に対していつもしている事を答える。


「やはり、習った解き方と、先生の出題傾向を考えているからですかね…。」


「え…。」


彼は目を見開き、口を開けて驚いているようだ。


(あれ…、私、なにか変なこと言っちゃったかな……)


私が少しタジタジしていると、また彼が声をかけてきた。


「どんなことしたらそんなことできるんだよ…。」


私は少し考えてから答える。


「ええと、そうですね…。まあ先生のテストをよく読むことですかね…。」


私がそう言うとまた彼は口を開いて驚いていた。

私からするといつもしていることなのでなんとも思わないが、彼があんな顔をするところを見ると、少し嬉しく感じる。

またもう一度彼の顔を見ると、まだ口を開いたまま表情が変わっていないので、少しからかってみた。


「なんて顔をしてるのですか。」


笑いながら言ってみると、彼は私が見ていることに気づいたらしく、顔を赤らめて目を逸らした。


「やっぱり、かわいいですね。」


そんな彼の顔が可愛く、愛おしく思った私はつい口にしてしまった。

でも、小声であったのもあり彼には気づかれなかったらしいかった。











あの後も会話がはずみ、楽しく話しながら帰路を進んでいく。

家があと5分程で着くくらいの距離になったとき、道路に残っていた泥水の上に車が通ったことにより、泥水がはねてきた。

最悪、距離は少し離れていたので避けることはできたが、支えてもらっていたこともあり、声を出すことしかできなかった。


「きゃぁ。」


その声に気づいた彼がいつの間にか私を抱えていた。

私は急なことで恥ずかしかったが、すぐに彼が泥水から守ってくれたことに気づいた。

そのおかげで私には一切泥水がかからなかった。

私は申し訳なさで慌てて彼に聞いた。


「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか。」


彼は何故か私を見て少し表情が変わらないので、どんどん不安になってきてしまう。

そんな私の表情を見てか彼は少し慌てたように答えてきた。


「だ、大丈夫。少し泥被ったけど気にしなくても…。」


そういう彼の背中を見て、私は心配と少し呆れを含んだ視線を向け、ため息をついてから答えた。


「どこが少しですか。思いっきり被ってるじゃないですか。」


私のせいで彼に風邪を引かれたりするのはとても苦しい。


「私の家すぐ近くなので。」


できるだけ歩くスピードをあげて向かうことにした。

急ぎながら彼の顔を見ると守ることができた事に対する安堵と、心配させてしてしまったことに対する申し訳なさが表情に出ていた。

その後私が住んでいるマンションに着いて、彼を連れていこうとすると、彼が驚いた様子で、私は少し小首を傾げてしまった。


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