第12話 想い人との1日② side 九条玲奈

「じゃ、じゃあ今から処置します。」


「お願いします…。」


あの後何回か袋の水を変えながら冷やし、ある程度冷やせたところで、応急処置処置が始まった。


「とりあえず、靴下を脱いでもらってもいいかな。」


言われることは分かっていたが、本当にやるとなると、少し恥ずかしい。

まだ触れられていないのにそんなことを思っていては、本当に触れたとき、もっと恥ずかしくなっていたたまれなくなるだろう。


「は、はい。」


私は、今の気持ちを誤魔化すように答えた。

彼はそのまま私から視線を逸らした。

恐らく私に気を遣っているのだろう。

その気遣いをありがたく思い、そのまま靴下に手をかけた。

でも、足に触れられることは嫌ではないが恥ずかしいので、靴下を脱ぐ手が止まる。

恥ずかしいが、結局5分くらいしたところで覚悟を決めて、靴下を脱いだ。


「脱ぎましたよ。」


「ああ。」


彼の返事に少し体を強ばらせてしまったが、すぐに平静を装って処置されるのを待った。

そのまま応急処置が始まり、彼が湿布を貼るときに彼の手があたり、しないように意識はしていたが、体が震えてしまった。

そんな私の動きに気づいて、彼は少し困ったような申し訳なさそうな顔をして声をかけてきた。


「ど、どうしたの、俺なんかしちゃった?」


でも私はずっと顔が真っ赤にしたままであったが、困惑させたままなのも申し訳ないので、誤魔化さずに思っていることを慌てて口にした。


「べ、別に何もされてないんですけど、…その、湿布を貼るためには足を触れないと分かっていましたけど、こんなこと初めてなので、ちょっと…、でも気にしないでくださいね。」


彼は私が慌てて話している様子を見て、少し声を出して笑ってきた。

私は笑われたことに少しムスッとしながら口にする。


「も、もう、笑わないでください。」


私がそういうと彼は少し微笑みながら、


「ごめんね、まぁ、湿布貼ってくから。」


と謝ってから彼は私の足をよせ、湿布を貼っていく。

また触れたことによって体が震えてしまったが、彼の手が心地好く、いつの間にか触れられてもなんともなくなっていた。

気がつくと心地好い手の感触が消えていて、顔を上げると、彼は鞄の中から何かを探していた。


「湿布は貼り終わったから、次はテーピングで固定していくから。」


テーピングを鞄から見つけ出した彼は、私の足に巻こうとするが、私が気になったことを聞いたことにより手が止まった。


「テーピングなんて入れているんですね。なんで持ち歩いているのですか?」


「ああ、昔俺がよく捻挫してたんだよ。体育の時とか、人にぶつかったりして、今回は俺じゃなくて九条さんだったんだけど…、本当にごめん…。」


彼は気にせず話してきたが話が変わり、先程の怪我のことに対して謝ってきて、その話からだんだん声が小さくなり、目も泳いできた。

私は少し不満に思いながら口にした。


「そうなんですね。でもその話をしてなんで謝ることに繋がるのですが。」


彼が少し目を逸らしかけたが、私は気にせず続ける。


「さっきも言いましたが、互いにまわりを見てなかったから良くなかっただけなので謝る必要はないです。」


「わ、分かったから。」


「本当ですかね…。」


彼は詰まりながらも答えてくれたが、少し流しているような気もしなくもないので、私は疑いの目を彼に向けた。


彼は私の視線から目を逸らし、そのままテーピングを付け始めた。

彼の色々な表情が見えて嬉しいと思う反面、自分自身のことを卑下しがちな彼を少し不満に思いながら、少しだけしか見えない想い人の顔を眺めるのであった。










彼の手の感触を楽しみながらテーピングをつけ終わるのを待っていると彼の声で終わったことが伝えられた。

少し彼の手の感触が名残惜しく感じたが、まずは付けてもらったことに感謝を伝えることにした。


「ありがとうございます。」


しっかり頭を下げて言うと、彼は少し驚きながらも微笑みながら返してくれた。


「別に気にしなくてもいいよ。今自分にやれることしただけ。」


「やっぱり、今も変わらないね。」


彼の優しさとその微笑みが昔と変わらなくてつい口から漏れてしまった。


「ん、今なんて言ったん?」


でも、彼には聞こえていなかったらしくほっとした。

まだ明かす覚悟が決まっていないのにバレてしまうと恥ずかしくて学校に顔を出せなくなりそうなので、本当にバレなくてよかった……。


「べ、別に何も言っていません。気にしないでください。」


気にしないでほしいと言うと、彼は気にせずに次の話題に切り替えてくれた。

(やっぱりこういう小さな気遣いをしてくれるところも好きだなぁ……)


「怪我したけど、送った方がいい?」


そんなことを考えていると、彼からそんなことが話された。

私はとても恥ずかしくて顔を赤く染めてしまったが、彼は鞄に応急セットをしまっているので気付かなかった。

でもこれはチャンスと思い、処置のおかげで多少歩けるようにはなったと思うが、彼の提案に乗ることにした。


「大丈夫…、と言いたいところですが、そうしてくれるとありがたいです。」


「ん。」


彼の優しさを利用する形にはなってしまったが、このあとも彼と話しながら下校できることにとても嬉しく、ドキドキするのであった。


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