第19話
「……寒くないか?」
「もっと雰囲気のあること言ってくださいよ……エッチ!とか」
「…………」
「冗談ですよ。かわいそうな人を見る目で見られるより、笑ってくれた方がマシです」
はは、と乾いた笑いをこぼす遠藤に俺もつられて笑ってしまう。自分の緊張を解すために出た下らない冗談かもしれないが、それでも遠藤のそんなさりげなさが良いと思った。
「じゃあ、俺もシャワー行ってくる」
「あ、はい。ご、ごゆっくりどうぞ……」
「何だそれ」
耳まで赤くした遠藤の横顔をちらと見たあと、俺は部屋に備え付けられている浴室へと向かった。
マンションの浴室よりも広く、やたらと豪華に作られた内装。腰を下ろすように設置されている椅子に座りながら考える。
「……間違ってない、よな……」
湿気った壁に跳ね返ってくる自分の籠もった声に、責められているような気がした。それでも……もう戻ることはできないのだと、俺には覚悟を決めることしかできないとわかっている。むしろ遠藤が計画に協力してくれることを幸運と思うべきだろう。
「ん~……」
ハンドルをひねるとすぐにシャワーから程よく温かいお湯が出てきた。シャワーで体を流すと、その温かな感触に少し体の緊張が解けるのがわかった。遠藤をあまり待たせるのも悪いし、髪は洗わなくてもいいかと俺はボディーソープを手に取り泡立てる。体を掌でそれなりに洗い、最後にシャワーで体についた泡を流して浴室を出る。
どうせこの後はすぐ事に及ぶのだから、できるだけ遠藤に手間をかけないようにしたい。準備はしたし、あとは行為を録画するためにスマホを設置するだけだ。
俺は濡れた体をタオルで拭き、そのまま部屋へ向かった。
「お待たせ」
部屋へ戻った俺は鞄からスマホを取り出し、カメラ機能を起動させながらベッドがちょうど良く見える位置を探した。
「あえ!?え!?!?」
形容し難い言葉を口から出した遠藤が慌ただしく俺の元へ駆け寄ってくる。何事かと顔を向ければ、遠藤は自分の腰からタオルを取って俺の腰へ回そうとしているところだった。なぜか焦った様子の遠藤に少し引きつつ、俺はその手をかわすように体を引く。
「な、なんだ?どうした?」
「こっちのセリフですよ!なんで裸なんですか!?」
「は?いや、別に必要ないだろ。これからするんだし」
何か言いたげに口を開けたり閉じたりするが、特に何も言葉を発さない遠藤を横目に俺はスマホの設置を済ませた。
「……じゃあ、いいんですよね?」
遠藤は耳まで赤くしながらも真剣な顔で、俺のことをベッドに押し倒した。ベッドの柔らかさを頭の片隅で驚きながら、俺は遠藤の真剣な遠藤の眼差しから目を逸らす事ができなかった。
「……うん、いいよ。俺のこと、抱いてくれるか……遠藤」
【全年齢版】運命を捻じ曲げるほどの▶︎BL きやま @kiyamahajime
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