ぬいぐるみが伝えたいこと

花蓮

第1話

 ぬいぐるみ。


 そう聞くと、とても可愛いものを想像しないかい? うさぎのぬいぐるみとか猫のぬいぐるみとか。例えばペンギンとかね。まあ、代表的なものといえば、クマ……だろうけど、それも何故か可愛い。


 ぬいぐるみ=可愛い、というイメージがあると私は思っている。偏見かもしれないが。


 けれど、夕方私の元に届いたぬいぐるみは、可愛いとは到底かけ離れており、寧ろ不気味さを放っていた。それはクマのぬいぐるみだった。調べてみると、145cmのぬいぐるみも存在するらしいので、大きさに関して苦言を呈したりしない。問題があるとすれば、その色合いと壊れ方……だ。


 色は黒く濁っており、目玉は飛び出て、中から綿が出てきてしまっている。明らかに、何年も使っていたぬいぐるみだ。それを、私の元へ送ってきた。そしてその相手が誰か分からない。名前が記されていないから。


 ――ただの悪戯だったとして、一体誰がこんなことを……?


 しばらく考えてみたが、考えるだけ無駄だと判断した私は、それをとりあえず倉庫へ置くことにした。


「それにしても……なんでこんなに重いんだよ……」


 そのぬいぐるみは大きいだけでなく、重さもあった。まるで、人間を抱えているような感覚。倉庫に運ぶだけで疲れてしまった。


「はぁ、疲れた。こんなことに労力使いたくないんだけど」


 一人ゴチる私の言葉に、返事をしてくれる者はいない。何故か少しだけ寂しさを感じてしまう。


 ぬいぐるみを倉庫に置いた私は、夕食の準備をするためにキッチンへと向かう。お風呂に入り夕食を食べる。その後、ゲームをして一日の残りの時間を過ごした。気付けば日付が変わっており、私はベッドにて深い眠りに入った。


 翌日、例のぬいぐるみをどうしようかと思い、倉庫へ向かった。


 すると何故か――ぬいぐるみが立っていた。壁にもたれてかかっているわけではない。立つなどありえないはずなのに、それは普通に立っていた。


「は……? え、何……」


 何が起きているのか分からず、私は口を開けたまま、そのぬいぐるみを見ていた。すると、ぬいぐるみ真っ直ぐに私に向かって来た。逃げないと。本能がそう伝えてきた。それなのに、私の身体は動かない。


 どんっ、と目の前に立ったそれは、私に対してこう言った。


「ようやく、一緒になれるね」


 ぬいぐるみの背中から、人が出てくる。まさか、と思った。そんなホラー小説のような出来事が、実際に起きるはずがない。起きるはずがないと信じたかった。


 けれど、目の前に起きているそれから目をそらすことはできない。


「あなた、どうして――」


「ふふふふふ」


 その人物は不気味な笑みを浮かべて囁いた。


「もう逃がさないよ。ずっとずっと……一緒だからね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぬいぐるみが伝えたいこと 花蓮 @hualien0624_e

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ