ふれあって、いっしょ。
こまの ととと
明日は明日の……
部屋の片隅に置かれたそれは、古ぼけていて、ふうっと吹けば埃のざわつくようなぬいぐるみ。
その形は、いわゆるテディベアに代表されるような普遍的な見た目ではありません。時代を感じさせる、悪く言えばセンスの遅れたぬいぐるみです。
――今じゃ誰からも、見向きもされないけど。
でも私は、そんなあなたが大好きでした。
私にだけ見せてくれる、とびきり可愛い笑顔。
私の頭を撫でる、優しくて暖かい手つき。
――ずっと一緒にいてね。
ぎゅうっと抱きしめると……あなたの体は柔らかくて。
ああ……! なんて幸せなんだろう……、あなたさえいれば何も要らない!!
本当にそう思っていたんです。
私は体が弱く、ずっと外ばかり見ていました。
外と私はかけ離れ、決して交わることのない。
だけれどある日、窓の外から私に微笑みを返す男の子を見つけたのです。
私は声を掛けるでもなく、それでもガラスを挟んで彼は楽しませれくれました。
家族以外とのふれあいに飢えていた、私と親友のぬいぐるみだけの空間が広がっていきました。
心は暖かく、でも、彼が去ると冷たくなって……。
それが、恋と知るのに時間は掛かりませんでした。
――好きなんだ、私。
誰に教わるでもない私だけの気づき。
数年経って、新しい治療法が出来て、そして私は外へと出られるようになりました。
いの一番に向かったのは、もちろん彼の元です。
初めて聞いた彼の声、そして……彼の胸の鼓動。
私達はやがて婚約して、明日夫婦となります。
久しぶりに戻って来た私とぬいぐるみだけだった空間。
数年ぶりに抱き上げた親友に報告した私は、にっこりと微笑みました。
――好きなんだ、私も。彼だけは、ずっと一緒にいてくれるだろうから。
ワタシが私を見てそう言いました。
目いっぱいの笑みを浮かべたワタシは、私を置いて部屋を出て行きました。
彼女は明日結婚します、大好きな彼と。
――今度は私の番。ばいばい。
ふれあって、いっしょ。 こまの ととと @nanashio
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