疲労回復ドリンクの活用方法
その頃天界では、天使たちの休日を賭けた「誰が生き残るでしょうゲーム」が開催されていた。もちろん、神様主催である。また、正解であれば一ヶ月の休息が、不正解であれば一ヶ月の連続出勤ががプレゼントされる。
そんな訳で、天使たちはそれはもう必死だった。ちなみに、今いちばん票が多い人物は「シラカ」である。理由は、敵の倒し方だろうか。
「やっぱり、自爆しながら人を殺すやり方は、他が勝てると思えないんだよね」
「マジでそれな。あれ、ルール違反ギリギリだけど」
「正に初見殺し」
「……爆発しまくってるけど、武器に爆発物なんて用意されてましたっけ」
天ちゃんは、ひ神様に問いかける。段々と口調が砕け始めているが、それに本人は気付いているのだろうか。
「用意してないはずなんだけどなぁ。バクじゃ片付けられないし。う〜ん……そういう才能かな!」
「うん、絶対違うと思います」
結局、原理は謎のままだった。
そんなこんなでわちゃわちゃした天界に、凛とした声が響く。天使たちは一瞬で警戒態勢を取った。何故なら、それは天使の声でもひ神様の声でもなかったからである。
危険人物かもしれない。そんな緊張感がその場を支配した時、ひ神様が口を開く。
「なんの用かな、第三代目死神総長サマ」
「なんの用かな、じゃないよ第三代目天界総長様、通称ひ神様。なにをデスゲームなんか開いてるんですか」
ひ神様の言葉で姿を現したのは、黒いコートに身を包んだ人だった。話を聞くに、死神らしい。
天使たちは目を剥いた。それは、現れた者があまりにもひ神様にそっくりだったからである。色違いだと言ってもいい程に。
強いて違いを上げるならば、ひ神様よりも男らしい体つき、顔つきをしていることだろうか。しかし、それでも双子と言われても違和感がない程には、いや。
逆に双子じゃなければ納得できない程にはそっくりだったのだ。
「いいじゃん。私の勝手だし」
「よくないですよ。うちの死神が大量に病みました。過半数が情緒ぶっ壊れたんですけど、どう責任取ってくれるんでしょう」
批判するような死神総長の言葉に、ひ神様は溜息を吐いた。
「死神にそんな健全な精神を持った奴なんていないだろ。大抵イカれてる」
「それはベテランだけです。新人が忙しさと生命の悲しい最期に頭がイカれました。日本属の死神を増やさなくてはならなくて、人件費もバカにならない」
本当、なにしてくれてんたよ。
死神の瞳はそう訴えていた。天使は、二人の会話に首を突っ込むこともできず、ただ周りでぽよぽよ跳ねている。
そんな天使の一人を、死神が掴み上げた。一体なにをするのかと天使たちは固唾を呑む。
「…………あー!」
ぷるりと天使の破片が落ちる。ぐちゃりと握り潰されて小さくなった、白いスライム状の天使は、綺麗な放物線を描きながら投げ飛ばされていった。
「ち、ちょっと、なにするんですか!」
天使の一人が戸惑いながらも非難すると、死神にギロリと睨まれて震えて小さくなった。
「そうそう、なにすんだよお前」
「ストレスが溜まってるんですよ。大丈夫です。魂は抜き取ってないので生きてますよ」
「あ、そうなの? ならいいや」
途端に興味をなくしたひ神様に、天使たちは微妙な雰囲気を醸し出したが、このカミサマはそのことに気が付いていない。もしくは、そういうフリをしているのか。
「で、話を戻しますね。要するに、死神の量を増やしてください。もちろん、そちらの全額負担で。どうせ天使は余ってるんでしょ」
「まぁ、そのつもりだったよ。これから死神は大量に必要になるから」
「……増やしてくれるならどうでもいいです。仕事は増やさないでくださいよ」
溜息を吐く死神に、ひ神様は笑った。
「多分、無理!」
「……あなた、そんな性格ではなかったですよね。もっと、人を」
「お前の言う通りだったよ」
死神の言葉を遮ったひ神様は、まっすぐに死神を見つめてそう断言する。それを見た死神は、なにも言わなかった。
そのまま無言でその場を去ろうとする死神を、ひ神様が引き留める。
「お前は」
その一言に続く言葉に、その場の全ての者が耳を傾けた。この、傲慢で謎の多い神様は、一体なにを言うのだろうかと。
ごくり、そんな唾を飲み込んだような音を発したのは、誰だったのか。
「シラカの爆発の仕組み、なんだと思う?」
先程までとは180度違う沈黙がその場を満たす。ここまで溜めておいて何を言ってんだお前。それが、全員の総意だっただろう。しかし、ひ神様は真剣な表情をしていた。
死神は呆れながらも、律儀に答える。
「一度、現場に出会したので分かるんですけど、疲労回復ドリンク、あるじゃないですか」
「それが?」
「あれを、一口も飲まずに割れば爆発する仕組みになっているらしいです」
「なぜに?」
「ここからは考察なんですけど、疲労回復ドリンクって、物凄いパワーが含まれているんですよね。だから、爆発するというのと」
「と?」
「誰かが設定をいじったかですね。一口を飲まずに無駄にした罰に爆発するようになっているとか」
「成程。やっぱ、お前は賢いな」
感心したような神の言葉に、死神は言った。
「白々しい。爆発の理由どころか、ほぼ全てを知っているというのに」
それを聞いたひ神様の笑みは、深くなるだけだった。
自殺者たちのデスゲーム 天結瘡 @amayuigasa
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