第23話 向かい風を愛する情報端末
「本当にいいんですか?」
恐る恐る、というよりは、半信半疑という感じで聞くキノネ。
それに、ポニシュのお母さん、アオイさんは頷いた。
取りあえず自己紹介は済ませたのだが、ポニシュはミドリ、お母さんはアオイという名前らしい。
そこでキノネは頭の上に電球を飛ばした。そして、ピカッと光が点く。確か、キノネが殺した唯一の人間の家族の名前が、青色と緑色の名前だった。
なんだかんだ言って、キノネは一人しか人を殺していなかったので、すぐに気付くことができた……と思う。
キノネは、夫を殺した自分に襲いかからないアオイを疑問に思ったが、どうやら彼女は私に怒っている訳ではないらしい。
むしろ、「夫が人を殺す前に死ねたことに感謝します。」とまで言って頂けた。うん、優しすぎるねこの人。
やはり、私の殺した人は善良な馬鹿だったらしく、人を殺せるような人間ではなく、仮に殺したとしても、その後は鬱状態になってしまうような人らしい。
成程、夫婦揃って善人という訳だ。そして、ミドリちゃん(同級生だった)はそんな善人のハイブリッドだということだ。
私は、ミドリちゃんを見た。項垂れていて、顔は見えないけれど、どうやら落ち込んでいるようだった。
私を殺そうとしてきたが、私も彼女のことを殺そうとしたので、お互い様ではある。
しかし、ミドリちゃんはそれを気に病んでいるのか、先程からおとなしい。
ちなみに、私の抉れた肩の痛みは、もう既にほぼないと言っていい。治った、と言えば嘘になるが、血は止まっており、何故か痛みもなかった。
これがご都合主義か。キノネは納得してしまった。
そんな時、ふとキノネは疑問を口にした。
「どうして、私がお父さんのことを殺したと分かったんですか?」
真っ当な疑問である。しかし、どうやら自己紹介の前には既に名前が知られていたことには気付いていないらしい。
賢いのかと思えばとんだポンコツだ。
キノネがその質問をした時、二人の顔が得意げに輝いた。キランと、明らかに顔色が違う。
それにギョッとしたキノネだが、勿論顔にはおくびにも出さず、できるだけ見なかったことにした。
「それはですね……これですよこれ!」
よくぞ聞いてくださった、みたいな顔でそれこれという代名詞ばかり話すミドリ。そこから、彼女の興奮が見てとれた。
ミドリちゃんは、テッテレーと左手を空に掲げる。
そこには、きらきらと輝く(エフェクト)、キノネのお揃いのスマートウォッチもどきがあった。
キノネは首を傾げた。スマートウォッチもどきにそんな性能、あったっけ?
実は、キノネは今までほとんどスマートウォッチもどきを使っていなかった。それも、マップの確認をしたくらい。
なんとも勿体ない。折角天使に気に入られたと言うのに。
そんなキノネに気付かず、いや、気付いているのかもしれないが、お構いなしにミドリちゃんは喋り続けた。
「これは、ウェアラブルデバイス、まぁ、スマートウォッチ、略してスマウォなんだけど、このスマウォにはマップ、時間、天使との連絡という、主にこの三つの役割があるの。」
アウェー、ラブ……LOVE? なんとかデバイス?
キノネは横文字に弱い。その為、変換をミスりまくった。
辛うじてラブを英語には変換できたものの、いや、これはラブではなくラブルなので全然あっていない。
そんなキノネは、「ウェアラブルデバイス」を「向かい風を愛する情報端末」と変換してしまった。なんだよその情報端末。
しかし、これが英語が苦手なキノネだということを鑑みれば、「デバイス」を「情報端末」と変換できただけでも上出来かもしれない。
キノネの関心はそっちに引き摺られた為、ミドリちゃんの後半の台詞は何一つとしてキノネの頭に入っていなかった。
そして、ミドリちゃんはまたもやそんなキノネをそっちのけで、高揚したように早口で次々と口から言葉を発している。
「その中にある天使との連絡がねそりゃもう便利なの、なんてったってね質問すれば大抵なんでも答えてくれるの、天使は最初『ちょっとした疑問なら』なんて言っていたけどお父さんが死んだこととか、誰が殺したのかかも教えてくれたよ、それがキノネちゃんだったってことで、キノネちゃんの特徴も教えてくれた。髪は一つくくりで前髪は眉毛を隠すくらいの長さ、眼鏡をかけた大人しそうな中学生だって。」
早口で分かりにくいので、纏めると、
・天使との連絡でなんでも答えてくれるよ!
・あなたがお父さんを殺したことを教えてもらったよ!
・キノネちゃんの特徴を教えてもらえたよ!
ということである。
キノネは情報量の多さに倒れそうになった。「え、私のスマートウォッチもどき、そんなに便利だったの? そして、私の個人情報筒抜け過ぎじゃない?」と目を回す。
アオイさんは、楽しそうに喋るミドリちゃんを微笑ましそうに見つめた。その視線は完全に親バカで、どうやらキノネが困っていることには気付いておらず、その場には暴走しているミドリちゃんを止めるものはいなかった。
圧倒的ツッコミ不足なその空間だが、少ししてキノネが気を取り直したことによって解決した。
「そうだ、お母さん。いいことってなに?」
思い出したように言うミドリちゃんに、アオイさんは「そうだった」というような表情をした。
「あのね、私たち、キノネちゃんに殺してもらったらどうかな。」
…………はい?
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