第22話 略してポニシュ
目の前の敵を先に倒すのか、潜んでいる敵を探し出すのか。
キノネがとった選択は、後者だった。
目に見えない敵というものは厄介であり、さっさと始末したいものだが、時間をかけて探し出すのはリスクがある。
それに、仲間がピンチになれば、潜んでいる奴も出てくるだろう。よほど非情で無情で自己中心的な奴でなければ。
それに、変に見つけて敵の数が増えるより、一人一人倒していく方が、恐らく簡単。結託されたら面倒だ。
そう考えたキノネは様子を見て、まずは目の前のポニテに緑のシュシュを殺すことに決めた。
相手が持っているものは銃だが、弾切れがある。だから、その時を狙う。
気を取り直した様子の彼女から放たれる弾丸を避けながら、様子を見る。何発か撃ったところで、彼女は持っていた銃を振った。
そして、スラックスのポケットに手を突っ込んだ。恐らく、弾切れになったので補充しようとしているのだろう。
今だ!
脚に力を込め、地面を蹴って、走り出す。前髪が乱れるような感覚がしたが、それに構っている場合ではない。
そして、さっきと同じように鎌を振り降ろそうとした時だった。
黒く光るそれが不意に現れて、キノネを捉える。先程までポニシュが持っていた銃は後ろに放り投げられていて、新しい拳銃の引き金にポニシュの手がかかっていた。
「なんで」、そこまで考えてキノネは気づいた。拳銃を二つ持っていたのだ。恐らく、弾切れ用に。
逃げようにも、もう近くまで来てしまっていた。スラックスに手を突っ込んで、弾丸を出そうとするフリをしたのは、私を誘き寄せる為か。
それに気付かなかったことに、キノネは悔しくなる。考えてみれば、案外簡単なことだ。客観的に見れば、こんな単純な罠に引っ掛かるなど相当な馬鹿だ。
自分に向けられる黒く丸い銃口に、言い表せない程の恐怖心で体が上手く動かなかった。ただ、せめてもの抵抗に目を瞑る。この至近距離だと、心臓や頭を狙われ、そして命中するのだろう。
ここで、殺されるのか。
そう思うと、やっぱり悔しかった。
走馬灯というものは、見なかった。
「待って!」
そう叫んだのは、一体誰だったのだろうか。
パンッという乾いた音が、そこに響く。キノネは、その音に目を開けた。ポニシュの持っていた銃口が、キノネの頭ではなく上を向いていた。
その、直後だった。
肩に、激しい鈍痛が走る。同時に、心臓がギュッと縮んで、その後、爆発したように激しく動き出した。
そして、熱く、冷たい変な感覚がそこを巡る。
何があったのかと、肩を見つめると、その黒い塊が掠っていた。掠っていただけなのに、皮膚が抉れていて、当然そこからは赤い血が出ている。
その事実を認識すると、余計に痛くなった。鈍い、体に響く痛みが、肩だけではなく血に乗って全身にまわったようだった。
死ななかった。けど、痛い。それはもう、痛い。
でも。
想像していたよりも、痛くなかった。
アドレナリンとかいう奴のお陰だろうか。
視界は霞んでいないし、むしろしっかり見えているような気さえする。視界にあるポニシュの顔は、目を見開いていて、驚いているようだった。
「『待って』って、なんで! お母さん!」
そして、その口調から怒っているようにも見える。そのポニシュがその怒気に任せて勢いよく言葉を発した。
そして、その勢いで後ろのポニーテールもかわいく揺れた。怒っているのにかわいいという、いや、起こっているからこそかわいいという不思議な光景に、キノネは自己肯定感がズルズルと低下していくのを感じた。
キノネはポニシュが怒っているその隙を狙い、片手で持った鎌で彼女を殺そうと試みる。しかし、片手だと慣れていないせいもあり、思うように動かない。
もどかしさを感じながらも、どうしようもないので力任せに大鎌を振ろうとした。しかし、それは叶わなかった。
「だって、こいつお父さんを殺したじゃん!」
どうやら、感情が豊かなようで、表情に思ったことがモロに出ている。
「……はい?」
キノネは、肩の痛みなど忘れて首を傾げた。誰っすかお父さん。
あと、隠れてたのはお母さんだったんだね。キノネは、いつの間にかすぐ後ろにいたポニシュのお母さんに、ブルリと白いスライム天使に負けないくらいに震えた。
あれ〜、耳は良い思うんだけどな〜。なんで気配に気が付かなかったんだろう。これが「母は強し」と言うやつか。納得。
そう、キノネは頷いたが、なんか違う。
ポニシュのお母さんは、お揃いの青いシュシュで髪を緩く纏めていた。こちらはポニテではなく、下の方でくくる、というよりは纏めていた。
そのせいか、ほんわりとした雰囲気が出ていた。この殺伐としたデスゲーム会場とはあまりにも場違いだった。ここで殺し合いをしていい人ではない。
そう、強く感じた。
優しい雰囲気を醸し出すポニシュ母は、声を荒げる自分の娘に言い聞かせた。
「お父さんは死んじゃったんだから、キノネさんに八つ当たりしてもどうしようもないでしょう。そもそも、これは殺し合いなのだから。それより、いいことを思い付いたの。」
そう、ポニシュ母は悪戯気味に笑った。
その笑みに、キノネは軽く恐怖する。
しかし、それよりどうして初対面の女性が自分の名を知っているのかを気にしてほしい。そして、できればそちらに恐怖してもらいたい。
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