第20話 ポニテにシュシュは最強説
パンッという、銃声のような音がして、ビクッと肩が揺れた。ハッとして発生源を探す。しかし、視界内には誰もいなかった。
取りあえず、鎌を持つ。銃を持つ、近中遠全ての距離で戦闘可能な相手には厳しいが、ないよりはマシだろうと考えた。
多分、音は近くだったから、誰かがキノネの近くにいることには違いない。一体どんな人なのだろうかと、キノネはぼんやりと考えた。
数分後、キノネが少し気を抜いた時、そいつは現れた。まるで狙ったかのようなタイミングに、キノネは口を引き攣らせる。
現れたのは、私と同い年くらいの一人の少女だった。私とは二十メートルくらい離れた場所に立っている。
彼女は、叫んだ。
「突然ですけど、死んでください!」
そう言うやいなや、右手に持っていた黒い物体を私に向けた。多分、というか絶対に銃である。
キノネは、冷や汗が顔を伝っていくのを理解しながらも、知らない振りをする。大丈夫。そう、口の中で呟いた。
____大丈夫。
たかが中高生。銃をこの距離で確実に撃つのはほぼ不可能。
サバゲーが好きで狙撃が得意な可能性はないこともないが、ほぼないと言ってもいちだろう。
それに、銃弾は限りがある。もし、予備を持っていたとしても、充填するのに多少の時間がかかる。その間に間合いを詰めれば、いける。
キノネが鎌を握り締めた時、パンッと、銃声がした。銃口は反動で跳ね上がっており、弾の軌道は大幅にずれ、全く違う場所に飛んでいった。
しかし、それはキノネに恐怖心を植え付けた。その恐ろしく速く黒い物体を、キノネは生前見たことがなかった。
キノネはドッジボールは得意だが(ただし避けるに限る)、流石にこれを避けることはできそうにない。
この子の腕からして、銃弾が私に当たることはないだろうけど、まぐれや偶然、そして覚醒がないとは言い切れない。
どちらかというと、距離を取った方が命中率が低くなる上に攻撃力も下がる。だから、キノネはできるだけ下がって少女を見た。
目立った特徴はないが、言うならば髪が長く、ポニーテールであることだろうか。青いシュシュでくくられていて、敵だがかわいいなと思った。
だって、ポニテにシュシュは最強だ。生前でも、女子が好きな女友達とよく話していた。
懐かしいと思った。あの子は、今どうしているのだろうか。死んだ私に対して、どういう感情を抱いたのだろうか。
考えて、血の気が引いた。
持っていた大鎌の柄を握り締める。
大丈夫。これは、私の人生なのだから。
キノネは、そう考えて笑った。それが、愛想笑いなのかはわからなかった。
真っ直ぐ少女を見つめる。その少女が、自分に銃弾が当たらないことを焦っていないことを疑問に思った。
なにか、秘策でもあるのか。それとも、これは引き付け役で、本当は……。
キノネはハッとした。そりゃそうだ。相手だって馬鹿じゃないだろう。銃というものは、確かに腕さえあれば一方的な蹂躪ができるが、弾切れがある上に、その隙を狙われたら対抗手段がなくなる。
その対策として、恐らく何かを持っている。それか、誰かがいる。そして、私が少女に気を取られているうちに、後ろから______。
そこまで考えて、ほぼ反射で鎌を後ろに振り下ろす。右足に体重をかけ、回れ右の要領でターンしながら、下を持った右手を軸にしながら、上を持った左手に力を込めて下ろした。
これは、キノネが練習中に取得した技だった。技というまでの大それたものではないが、ゲーム中の後ろの敵を攻撃する時に使用していた技を参考にしたものだ。多少、力任せではあるが。
しかし、手応えはない。何故!? そうキノネは焦ったのだが、見てみるとそこには誰もいなかった。
そう、キノネの早とちりである。
キノネは、自分の顔にじわじわと熱が溜まっていくのが分かった。この奇行を少女がどんな顔で見ているのかと思うと、燃えるような羞恥心が身を焦がしそうだと思った。
成程。これが、穴があったら永眠したいということか。
キノネは、恥ずかしさのあまりそんなことを考えて現実逃避した。
しかし、ここは殺し合いの場。現実逃避は命取りになる。ずっとこうしている訳にもいかないので、キノネは何事もなかったかのように、自分の目の前の敵に向き合った。
そこで、彼女の様子がおかしいことに気が付く。普通なら、笑って馬鹿にしているはずでは? いや、それ以前にキノネが後ろを振り返った時を狙って射撃するべきでは?
それなのに、そのポニーテールの似合った少女は遠目で分かる程に明らかに呆然としていた。
恐らく、これは私の奇行のせいだろう。しかし、そんなに驚かれることだろうか。いや、これは「な、なぜ!?」という感じに狼狽えている。
ということは、「なぜ気付かれたのか」と少女は思っている……のか?
つまり、ただタイミングが悪かっただけで、これはキノネの早とちりではないということだ。
キノネは、胸を撫で下ろした。それは、自分が変人だと思われていないということと、他に誰かがいるということに気づけたという安堵からだった。
しかし、安心はできない。それは、キノネの命を狙う人がもう一人いるということだからだ。キノネは、さっとその気配を探すも、いない。
どこにいるか分からない。そもそも、本当にいるかどうかさえはっきりしていない。キノネの推測とポニテ少女の反応から、なんとなく「そうだ」と思っただけだ。
疑心暗鬼になりそうな状況に、キノネは叫び出したくなった。
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