第16話 厨二病とデスサイズ
急激に意識が覚醒する。ハッとした。ここはどこだ。
そう思ったキノネは、辺りを見渡した。そこは、見覚えのある場所で、どこかと思えば最初にいたスタート地点だった。
確か、キノネはヒトハの持つ剣に突っ込んで行って、自殺したはずだった。なのに、まだ生きているということは、自殺は失敗したということか。
それを理解したキノネは、深い溜め息を吐いた。ふっと蘇る死という感覚に、できればもう経験したくないなと思う。キノネはマゾヒストではない。そこらの痛みでは動じないが、流石に致命傷は痛い。
皮膚を突き破り体に侵入して、心臓を貫いた剣の鋭い冷たさは、忘れることなく体に染みついた。あの一瞬で心臓が爆発したかのように大きくからだに響き、全身を巡る血液が沸騰したかのように熱くなったかと思えば、次の瞬間波が引くようにサァーと冷たくなった。
痛みは感じていたはずなのだけれど、それ以上に気持ち悪さが体を支配した。温度差に酔って、目が眩み、景色がモザイクがかかったようにブロック状に見えて、そして視界が暗くなる。
そして、キノネは恐らく意識を失い、死んだ。時間で考えれば三秒もあるかどうかだったのだろうけど、キノネには永遠に続いたかのように感じられた。
その感覚を思い出して、キノネは気分が悪くなった。手が僅かに震えていることに気が付いて、更に苛立つ。
別に、死ねない可能性だって十分になった。ただ、それなりにいい方法なんじゃないかって思っていたから、失敗したのはショックだった。
やっぱり、自殺はできないのか。なら、生き残るしかないのか。キノネは思わず溜め息を吐いた。期待していた分、ショックは大きい。
しかし、くよくよしていたって何かが変わるわけではない。行動しないとどうしようもないので、キノネは取り敢えず状況を把握するために、自分の持ち物を確かめた。
そこで、キノネは大変なことに気が付く。
「嘘だろ……。武器なくなってんだけど。」
そう。銃も果物ナイフも、入れていた鞄ごとなくなっているのだ。言うならば、強くてニューゲームの真逆である。ゲームで言えば、中盤の舞台で武器なしの状態でスタートするのと同じことだ。
最悪だ……! これは、自殺しようとしたペナルティみたいなものだろうか。しかし、そうだとしてもこれは辛い。失格にならなかっただけマシ……、いや、殺されずに失格になる方法があるなら失格されたかった。
取り敢えず、使えそうな武器を手に入れるため、キノネは落ちているものを片っ端から調べ始めた。しかし、果物ナイフや、ヒトハが使っていたような剣はなかった。拳銃が一つあったものの、やはりこれだけでは心許ない。
序盤はもう少し武器が落ちていたはずなのだが、恐らく使いやすそうなものは、既に他の人が使っているのだろう。
その他の人の武器を盗るには、戦って勝ち、ありがたく頂戴するのが有力な方法なのだろうが、欲しい武器を持っている人とよわよわの武器で戦うのは圧倒的不利である。
今、持っているものは拳銃。そして、キノネはそれを扱えない。鎧は、落ちていないこともないのだが、それではスピードが落ちてしまう。キノネには瞬間的なスピードはあるので、それを殺したくない。
それに、どれくらい攻撃に耐えられるのかも分からない。不確定要素が多いものを使う気にはなれない。まぁ、それを言うならば拳銃も同じなのだが。
しかし、なにもないよりかはマシだろう。そう思って拳銃を見つめる。六つホルダーがあり、一つを除き全てに弾が入っていた。つまり、五つ入っている。
何故、全てに入っていないのか。そう疑問に思うも、これが偶々五つ入っていただけで、一つだけのものもあるのかもしれない。
まだ、拳銃が落ちているかな。そう思ったキノネはまたもや目線を走らせるも、落ちているものは重そうな剣、鎧、盾、大鎌、ボクシングで使うイメージがあるグラブのようなもの。
「……待って、大鎌?」
ワンテンポ遅れて反応したキノネは、声を上げた。
大鎌
またの名を、デスサイズ。
死神が扱うイメージの強いものだが、その言葉は、キノネの心を揺すぶるものだった。
キノネは、なにかに取り憑かれたかのように、フラフラと覚束ない足取りで大鎌の近くまでやってきたと思えば、座り込んだ。
皆様お気づきであろうか。キノネは十四才、そして、中学二年生であることを。それが指すもの、それは、厨二病である。
そっと、キノネは大鎌に手を伸ばす。刃を触ると、じんわりとした物体の冷たさが伝わってきた。
別に、キノネは『封印されし我が手よ! 禁忌の龍が目を醒ますぞ!』とかいう、もはやお笑いのゴリゴリ厨二病ではない。
ただ、死神というものや冒険と言う言葉に心を躍らせるくらいには厨二病なのだ。生前でも、右手を抑えて喚く男子を横目に、カッコイイものに脳内ではしゃぎまくるくらいには厨二病なのだ。
キノネがよくプレイしていた『新世界のフレイド』もロールプレイングゲーム、RPGの略称で親しまれるそれもそうだった。
計八人の特徴の違うキャラクターを操作し、敵を倒していく。見た目が綺麗なゲームだったので、キノネはそれにはまり込んだ。特に好きだったのが、皆さんご存知『奥山千尋』である。
ミステリアスでクールな一面がありながら、時折魅せる中毒性のある笑顔にキノネは殺られた。
これは、それなりにキャラクターを使っていかないと見ることのできない表情なので、それがまた「な、仲良くなれてる!? あの千尋と!?」という感じの喜びがあるのだ。
しかし、このゲームはあまり人気ではなかった。ロードが長い、敵の種類が似通っている、自由性がないなどの理由で飽きられることも多く、有名ではないゲームなのだ。
このゲーム機のカセット(またの名をソフト)なのだが、そもそもの値段が六千円を越える。その代金を払うのなら、もう少し高いけれど自由性が売りの大人気RPGゲーム『世界のソラ』を買う方が良いとレビューで言われていた。
ちなみに、キノネは『新世界のフレイド』を訳あり商品で二千円以下で購入した。めっちゃラッキーだった。
キノネは、『世界のソラ』のソフトを誕生日プレゼントでもらっていたのだが、少しキノネには難しかった。難しかった、というよりは、ゲームに限り完璧を目指し、絶対にゲームオーバーしたくないキノネには向かなかった。
どうしても敵に向かうのに臆病になってしまい、序盤でストップした。
一方、『新世界のフレイド』はキノネの為にあるようなゲームだった。敵の種類が多くないということは、安心安全にプレイできる上に、予めルートが決まっているので、間違うこともない。
そして、普通に人が死ぬ。モブは勿論、主要人物でさえ死んだ。対象年齢は十二歳であるはずなのだが、そうとは思えないくらい死ぬ。流血シーンはないのだが、死ぬ。
しかし、それが、厨二病のキノネの心をわし掴みにしたのは言うまでもない。
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