第6話 トラウマがフラッシュバックしてブラックアウト

 その青年は、少女が人を殺すのを見た。


 自分より明らかに格上の男を相手にし、作戦勝ちした。


 相手した男が人を殺すことを躊躇ったことや、少しばかり頭が弱かったことはあるが、それでも勝ちは勝ちだ。


 中学生の少女が、中年の男を殺す。


 それは、信じ難い事実であり、同時にその青年にとっては興味深いものであった。


 一体彼女の精神はどうなっているのだろうと疑問に思うが。まぁ、それを言うなら人の死になんとも思わない自分も同じか。


 しかし、この娘は使えるな。確か、協力はしても良かったはずだ。


 この時点で、彼、ソウキの心は決まっていた。


 あの、人を殺せる少女を手駒にとる、と。


 それにしても、この少女はイカれてんなとソウキは思った。自分の手にナイフを刺すなんて。、誰かもう人を殺したのかな。なんて思って来てみたら、まさか自傷行為なんて。


 しかし、なんの為だろう。リスカ的なあれか? 自殺者だし、そういう人がいてもおかしくない。デスゲームという訳の分からないに無理矢理参加させられて、ストレスで刺したのか。


 分かんないな。ソウキはお手上げだった。


 でも、まぁいい。どうせ子供だろ。簡単に手懐けられるさ。そう、ソウキは考えた。まぁ、彼の容姿を鑑みれば妥当だろう。


 ソウキは、俗に言う爽やかイケメンだった。整えられた顔面に、綺麗に切り揃えられた髪、細い手足、それでいて男らしいゴツゴツした手の平。


 細長い目はしかし、柔らかそうな雰囲気を醸し出していて、漫画なら緑や青のキラキラとしたエフェクトが入ったオーラが纏っているであろうイケメンである。


 もし、この属性盛り沢山野郎をどこぞの陰キャ男子が見れば叫ぶであろう。

「コンチクショー! 神様は理不尽だ!

このリア充めが。爆ぜろ! 身長縮め!」


 因みに、キノネは『爆ぜろ』より『禿げろ』の方がいいのではと思っていた。是非布教しようと思う。皆さんも、リア充がいれば脳内で叫んで欲しい。


「リア充禿げろ!」


と。これからは禿げろの時代だ。


 おっと、話が逸れたが、つまりソウキは自分の顔面を使ってキノネを手駒にとり、自分の手を汚さず人を撲滅させようとしているのだ。


 なんともずる賢い。しかし、これがルール違反だと、誰も言っていないのだ。というか、天使は言っていた。『自分の頭でも容姿でも味方につけてね』的なことを。


 つまり、これは騙された方が悪いのだ。キノネがこの顔面に騙されないことを祈るばかりである。


 また、ソウキは作戦を開始する為に、キノネに近付く。因みに、キノネはソウキの存在に勘付いている。しかし、『なんとなく誰かいるな』という感覚なので、完全に気が付いているわけではない。


 気配を消し、息を潜める。キノネまであと十メートルというところまで近付いたソウキは足を止めた。彼女は耳が良い。どれだけ気配を消していようが、ある程度近付けば気が付く。


 つまり、キノネは振り返った。『何かいる』、そんな確信を持って。


 そんな彼女の目に映ったのは、何も武器を持っていない、手ぶらの背の高い男だった。キノネの彼に対する感想は、

『え、この男、デスゲームなのに武器持ってないの?』

だった。因みに、顔は全くと言っていい程見ていない。自信満々だったソウキが可哀想だ。


 しかし、ここは殺し合いの場。いくら相手が武器を持っていないからと言って、気は抜けない。キノネは、斜めがけにした茶色のバッグから銃を取り出す。


 それは、最初に拾い、自信がないと言って鞄に入れたものだった。


 黒いずっしりとしたそれは、冷たい。キノネはその矛先を高身長青年に向けた。

「それ以上近付くなら撃つよ!」

そう叫ぶと、言ってもないのに両手を上げる青年にホッとした。


 しかし、それを絶対に表情に出さない。撃つぞという、自信満々な敵対心剥き出しの表情を作っていた。私は、いつでもお前を殺せるのだと、そう言わんばかりの顔。それが意識してできるのが、キノネという女だった。


 しかし、『殺し合いなのに、なんで早く殺さないの?』なんて聞いてくる奴じゃなくて良かった。そうなれば、銃が撃てないことがバレてしまう。


 キノネは、青年の顔色を覗う。僅かに青くなっていた。私が撃たないことを疑問に思うっている訳ではない。


 つまり、脅しが効いている。ということは、この男は生きたいのか。つまんね。キノネは気分が悪くなった。


 一方ソウキは、それはもうビビっていた。なんだこの女。物騒すぎるだろ。銃とか反則じゃね? 本当に子供か?


 つまり、舐めていたのである。あと、反則ではない。お前が言うな。


 というか、自分の力を過信していた。幼い頃からチヤホヤされ続け、容姿が良ければ頭も良い。人生イージーモードだったのだ。そんな彼が何故自殺したかというと、極限状態に追い詰められたからである。


 ちょっと(かなり)ヤバい女がソウキに惚れ込み、ストーカーしてその後監禁、そしてアハーンな行為を強制させられ、逃げようとするならば拷問させられる。顔が良過ぎるのも難点だ。


 ソウキはこの生活が続くならと、彼女がソウキを傷付ける為に使っていた包丁で自殺した。


 そんな前世がある為、女性恐怖症になりそうなものだが、ヤバい女はアラサー、キノネは少女。よって大丈夫だった。


 あと、キノネが取り出したのが銃なのが幸いした。果物ナイフを取り出そうものなら、ソウキはトラウマがフラッシュバックしてブラックアウトだった。ごめん、格好良く横文字使いたかったの。失神ね。


 男だし、女の力には勝てそうな気もするが、彼は物理的な力を持っていなかった。つまりは力がない。


 爽やかイケメンというと、スポーツ万能な気もするが、彼は運動音痴だった。属性盛り込み過ぎのソウキの、唯一とも言える欠点だった。


 流石に神も全てを与えた訳ではないらしい。あ、この場合の『神』とは実現する『ひ神様』ではなく、比喩表現である。


 そういうことで、戦闘になれば勝算はない。味方の状態で、油断しているところをバンとかならいけるが。


 どれだけ頭と顔が良くても、軟弱な体では、デスゲームでは生き残れない。故の、仲間になって撲滅してもらおう作戦である。


 取り敢えず、ソウキは未だ銃を自分に向ける少女に仲間になるように呼び掛けることにした。

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