転生したらぬいぐるみだったんだ…

細蟹姫

転生したらぬいぐるみだったんだ…

 この世界には魔物が居るらしい。

 カッコいい聖剣や美しい魔法があるらしい。

 不思議な道具や、珍しい食い物が沢山あるらしい。

 そして何より、俺には前世の記憶があった。

 だが―

 今の俺にはそんな物何の意味も無い。

 何故なら俺はぬいぐるみ。それも、売り物ではなく展示用のぬいぐるみだ。


 子どもが通りすがりに俺を持ち上げては、何の恨みがあるのかグシャーっと力いっぱい潰してみたり投げたりするおかげで、薄汚く形も崩れ、今や何のぬいぐるみかも分からない状態になっている。

 あぁ、ガラス戸に映る、床に転がる自分の姿は何度見ても泣けて来るぜ。


「災難ですなぁ、クマもどき君」


 床に転がる俺にそう言葉を飛ばしてくるのは天井からぶら下がった鳥のぬいぐるみ。

 俺が、クマの様な猫の様なネズミのような、謎の容姿をしているから、あいつは俺をクマもどきと呼ぶ。


「お前は良いよなぁ。子どもに悪戯される心配が無くて。」

「代わりにホコリが積もって仕方ないですがね。見てくださいよ、私の自慢の黒いボディ、真っ白になっちゃって…」

「悪いな。真下に居る俺にはお前の頭上は見えねぇ。」

「さようですか。あ、クマもどき君朗報です。ご主人が貴方の存在に気づきましたよ。きっと棚に戻してもらえます!」


 鳥の言葉通り、店主がすぐに近寄って来て俺を拾い上げ、棚に戻…さない!? 

 何故だ!?

 じっくりと俺の顔を舐め回すように見て、ため息交じりに「大分汚くなったな」と吐き捨て俺を連れて店を出る店主。その先には水の入ったタライが用意されていた。


「うぁ水攻めだ! 子どもの力なんて比じゃない力で揉まれ、擦られ、絞られる!!」

「ご愁傷さまですなクマもどき君。」


 マジかよ。早まるなってご主人。大丈夫、まだいけるって、ほらこの辺りは汚れてな―――


 おごぼごぉう…ブクブクブク…


 俺は問答無用で洗剤と水の入ったタライに沈められた。

 あぁ、せめて人間が良かった…

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