妖精の王様

 光がおさまると私はいつの間にか森の中にいた。

 -ここまっすぐまっすぐ。おうさまひろば

 ーそこおうさまいる

 目の前の道をまっすぐ進めばおうさまがいる広場に着くということだろう。

 指示通りに進む。道は五分くらいで行き止まりに着いた。

 妖精の言葉の通りそこは円形の広場だった。木々の枝がそこだけぽっかりとなく、上の方から日の光が差している美しい場所で、その中心には彼らの中でも特に大きく美しい少女の姿を持つ妖精がいた。きっと彼らの言うおうさまだろう。

「こんにちは妖精の王。私に美しいなんてお上手ね」

「こんにちはよく来ました。美しい天神族の王女」

私の不敬とも捉えかねない言葉を彼女は笑って受け流した。


「私は王様と便宜上呼ばれてはいますが彼らの本当の王ではありません。ですから王様呼びは止めていただきたい」

 神話でも自由気ままな存在として書かれる妖精には名前など要らないのだろう。そして、国家も。しかし、彼女に呼び名が無いのは困る。

「ではなんと呼べば?」

「さあ、妖精にはさるお方以外に名前など無いので、自由に呼んでください」

 自由気ままな存在だとしても確立された自我があるというのに名前が無いなんて、なんて可哀想なのだろうか。もしかして、彼女の言う『さるお方』とやらが決めたのだろうか。

 私は少し悩んで彼女に告げる。

「あなたの名前はシルフィード。あなた達は風のように気まぐれな存在だもの」

「では私からもあなたへ名前を贈りましょう。あなたは『  』―我らに豊穣を与える特別な存在にこれほど相応しいものはないでしょう」

 名前とその後に続いた言葉は妖精の言葉なのか良く聞こえなかった。でも、それがシルフィードにとって特別な事と言うことは分かった。

 そして、シルフィードの言葉が終わると私の周りに光る風が取り巻いた。


 風が収まると私の元のきれいな体があった。それは少しの合間だけ形を保っていたが、やがて暗い闇よりも恐ろしい何かとしか言い様のない靄が溢れるとともに形を崩れ落ちてゆく。


「これがあなたの新しい体。私の力が弱いせいで、あまり長くは持たないけど、ほら。」


 シルフィードが私に手を当てると、再び綺麗な体に戻った。私が念願の私の綺麗な体を再び手に入れられたことで瞳から涙がとめどめもなく流れていく。

「ありがとう、シルフィード。この出合いは一生忘れない」

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王女の慟哭 神薙 神楽 @kagurakagura

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