王女の翼

 その、命を奪うには少々頼りない、私の手に合わせた小さめのハサミを頸動脈に当て、切ろうとした。

 私は意識を保ったままだった。鏡を見ても傷一つない首が映るだけ。


 私の生命としての本能が自ら命を断つことを拒絶したのだ。


 手首に当ててみても結果は同じ。


 どうして、私はこんなにも絶望しているのに。

 こんなにもこの胸を切り裂いて心臓すらも切り裂いて真っ赤な血肉を見て、それから神の元にいや、この際、地獄であろうと、現し世に留まろうとも、もしくはすべてが無くなろうとしてもどうでもいい。


 とにかく私は死んでこの地獄から逃げ出したいだけなのに。


 ふと、私の目に白い翼が映った。天神族の象徴たる神聖な翼だ。

 この翼を失えば神に見捨てられたとして処刑される。王女ならば尚更。


 神聖なこの翼を失い、獣と同じ存在に堕ちる。


 けど、もう、どうでもいい。


 白い翼の根元にハサミを当てる。


 思ったよりもするりと刃が通る。

 そして、私はようやく意識を手放せた。


 私が最後に見たのはこちらにかけ寄るメイドと騎士だった。

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