王女の慟哭
神薙 神楽
始まりの慟哭
死にたがりの王女
私達天神族はつぎはぎだらけの体で生きてる。十五の成人の日に器官移植の処置を受けるのだ。地龍族の強靭な体、人魚族の美しい歌声を生み出す喉、風狼族の遠くを見通す瞳。
処置を受ければ残るのは天神族の翼と整形だらけの顔。それから醜い思考を生み出す脳も。
天神族は脆弱だった。地に降り立てば病に冒され、力も何もかも他の種族に劣る。
今でも天神族が残るのは、天敵である竜の数が少なく、器官移植の処置があったおかげだろう。むしろ器官移植は脆弱な天神族のためにできた処置なのだ。
私はそれが嫌だった。この綺麗な私の体が好きだった。天神族の醜い思考を体現するこの処置が嫌いだった。私は周囲に絶対に受けないと主張した。それはこどもの戯言と流された。成人の日の直前まで言っていたことは流石に大変だと思ったのか周囲の大人たちがなだめてきたのでそれはそれで滑稽だった。私が一応は王女だったことも関係するのだろう。
十五になった日の朝。私は違和感で目を覚ました。器官移植の処置が私の体に施されていたのだ。
わめいて、わめいて、一通り物に当たった後、
私は死のうとした。
最初は首を吊ろうとした。縄はなかったからシーツの端を切って編んで縄代わりにしようとした。メイドに切られたシーツが見つかって止められた。
次は高いところから落下しようとした。なかなかいい感じの高さの場所が見つからなかったが、何とか見つけた場所から飛び降りた。しかし、器官移植でさらに強くなった天神族の翼で空を飛ぶだけになった。死ぬことだけを考えて、翼のことも忘れた私はとっても滑稽だった。
その次は毒を飲んだ。そのころには私が自殺しようとしていることに気が付いていたのか、閉鎖された部屋に移っていた。ナイフなど殺傷能力のあるものは与えられなかったが、花は飾られた。鈴蘭の花を活けてほしいと言えばその日のうちに飾られた。その鈴蘭の飾られた花瓶の水を飲んだ。昔に読んだ本に鈴蘭の毒は水溶性だと書かれていたから。かなりの量を飲んだのに、鈴蘭すらも食べたのに、人魚族の、毒すらも友とする丈夫な臓腑には意味はなかった。
そのほかにもいろんな方法を試した。餓死も溺死も限られた物資と時間の思いつく限りのすべての方法で。
それでも天神族の技術に、人魚族の肺に、地龍族の強靭な体に、風狼族の疾風のごとく駆ける足にすべて拒まれた。
もう器官移植の処置を受けて一年は経った。やみくもに死のうとしても死ねなかった私は綿密な計画を立てて死のうとした。周囲もようやく私が死ぬのを諦めたと認めるくらいの時間がたった。
そんなころ、私はようやく念願の刃物を与えられた。
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