第43話「魔力を解き放て」
ゴーレム武闘大会まであと23日。この日もサイは、放課後にジェネに魔法の腕を鍛えられていた。ジェネとサイとでは圧倒的な力の差があり、サイがどれだけ自分にとっての本気の魔法を使っても、ジェネはさらにその上を行く魔法で彼の魔法を掻き消す。
いかに相手より強い魔法を使えるかの魔法の訓練は、いつも通りジェネがサイの魔法を尽く無力化していく。
「はぁ……はぁ……。」
「どうしたサイ。魔力が尽きたか?」
「まだ……やれる!」
どれだけやってもサイはジェネに勝てないが、それでも諦めずに訓練を続けた。
武闘大会まで22日。その日はジェネシスタの追加武装を魔法で生成していた。
これまでにジェネシスタの戦いを見続けてきたサイは、プチゴーレムでもハイゴーレムに勝てると確信し、「ジェネシスタで武闘大会に出る」と決めたのだ。
サイはジェネシスタの拡張性を広げる為に、キリで機体の各部に穴を開け、そこに追加武装を接続させる事で、プチゴーレムでも、ハイゴーレムに並ぶ火力、推力、耐久力を得られるはずだと彼は考えていた。
それはそうと、サイはこの時点で飛行魔法、フライトアップを習得しており、それはつまり自分のゴーレムでもフライトアップが使える事を意味する。
なので、ゴーレムでの空中戦を強化する為に、彼は早速ゴーレムをフライトアップを使った状態で使いこなす訓練を行った。
「どうだい?フライトアップを使うのは案外難しいだろ?」
「うん……姿勢を制御するのが難しいね……空を飛行するってのはかなり新鮮な体験だったけど、それをゴーレムにさせるとなるとこんなに難しいなんて……。」
「コツは「3次元的感覚」を身体に慣らす事だ。地上にいれば動くのは前後左右だけだが、飛行した時にはこれに上下に動くという選択肢が加わる。行動の幅を理解し、それに順応すればフライトアップは強力な武器になる。」
「分かった。やってみる!」
そうしてその日のゴーレム操縦訓練は、サイにとってはいつもよりキツい訓練となり、武闘大会への日数がまた1日過ぎていった。
武闘大会まで20日。この日は学園
が休みなので、サイは訓練の場所を山に移した。
そこでサイはある魔法をジェネから教えてもらう事にする。
「魔力解放を教えて欲しい……だって?」
「うん。前にメメント先輩が使ってる所を見て、ゴーレムの戦力差を使い手がカバーすればより有利になれると思ったんだ。」
「そうか。確かに魔力解放なら自分の力を一段と跳ね上げる事ができるな。」
サイが習得したい魔法、それは体内の魔力を爆発的に増加させ、魔法の威力と身体能力を向上させる、魔力解放の魔法だった。
それを聞いたジェネは、手っ取り早く魔力解放を習得する為の手段を選ぶ。
「それで、魔力解放を習得するにはどうすれば……ってジェネ!?」
「こうするんだよ。」
サイはジェネのとった行動に驚いてしまう。彼女は右手を天に掲げ、黒い炎の球を形成させていたのだ。
その上、ジェネはサイの方をしっかりと見つめており、まるでこれからサイ目掛けてダークファイヤーショットを撃つつもりのように見える。
「な、何してるんだよ……!」
「今からこれを君にぶつける。死にたくなければ全力で身を守る事だな。行くよ!!ダークファイヤーショット!!」
「っ……本気なの……!?」
そうして、ジェネは容赦なくサイ目掛けてダークファイヤーショットを撃ってきた。
焦りつつもなんとか魔法で抵抗しようとするサイ、彼は咄嗟にアクアショットを手の平から放った。
「アクアショット!!」
彼の手から放たれたアクアショットは迫り来るダークファイヤーショット目掛けて飛んでいったが、水の弾はかき消され、尚もダークファイヤーショットはサイに向かって飛んでくる。
焦ったサイは、全力を出すつもりで、今度はさっきよりも多くの魔力を込めてアクアショットを放った。すると……。
「アクアショット……!!」
先程と同様、サイの手の平に水の弾が形成されたのだが、その大きさは先程のものよりも大きく、さらに対象に目掛けて飛んでいくスピードもさっき撃ったアクアショットよりも速くなっていた。
そして、そのアクアショットはダークファイヤーショットを見事に打ち消す事に成功したのだった。
「……ジェネ、今のは?」
「今ので魔力2割解放といった所か。まぁ私の魔法も本気では無かったんだがね。」
「2割って……僕、魔力解放できてたの?今?」
「あぁ。魔力解放発動のトリガーは、追い詰められる事だ。まぁ使いこなせば追い詰められなくとも使えるんだけど、その状態になるには過酷な特訓を受ける必要がある。やる気はあるかい?」
ジェネによると、魔力解放は敵に追い詰められる事で発動し、強力な力を使い手に授けてくれるそうだ。
そしてサイは、魔力解放を使いこなせるようになる為に、ジェネの訓練をもっと受ける事にする。
「この魔法があれば、ジェネを……。」
「どうしたサイ?」
「ううん、何でもない。」
そうして、その日は丸1日魔力解放を使いこなせるようになる為の訓練に時間を注いだ。
ゴーレム武闘大会までの時間はそう長くないと感じたサイは、これからさらに訓練に勤しみ、自らの腕を伸ばしていこうと決意した。
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