第42話「サイとジェネと」

ゴーレム武闘大会まであと27日。その日、学園から帰ったサイは、魔道具を売る店に行って、以前ドスバードを討伐した事で得た銀貨で、ある魔道具を買って家に帰ってきた。


「ドスバードを換金した時のお金があって良かった……これがあれば……。」


部屋で買った魔道具を前にしてそう呟くサイ。その時、彼の部屋の扉をノックする音がサイの耳に入り、彼がノックした人物が部屋に入る事を許可すると、扉の向こうからジェネが姿を覗かせた。


「サイ、訓練の時間だが……それは何だい?」


「あぁ、これはね……「鑑定具」って言うんだ。」


「鑑定具……見た事の無いものだなぁ。」


ジェネにそれは何だと聞かれたサイは、これは鑑定具だと答える。

鑑定具は、サイとジェネからすれば黒い長方形のガラスの板のような物に見えるが、それは魔法によって作られた液晶ディスプレイで、最新の技術によって作られた魔道具なのである。


これは画面の中央に手で触れる事で起動し、画面の中央に魔法陣が映し出される。それに鑑定したい人や動物などの身体の1部をかざすと、その生き物の情報が画面に映し出されるのだ。

その生物の個体名、種別、心身の状態、魔力量、使える魔法など、細かな情報が映し出される。

モードを変えれば、食べ物や植物、道具などの鑑定も可能になる。


「で、なんでサイはそれを買ったんだい?何かを鑑定したいの?」


「うん。ジェネを鑑定したいんだ。」


「私を……鑑定?」


「うん。ジェネの身体の詳しい事、作った本人のカッパ君に聞いてなかったし、ジェネの身体が今どんな状態やのか、あとジェネはどれぐらい生きられるのかとかも気になるんだ。」


サイは、ジェネを鑑定する為に買ったとジェネ本人に明かし、その理由も説明した。


「そうか……まぁ私が君より先に死んでしまったら君にとってはとても悲しいからね。気になるのも無理は無いな。」


「そ……そうだね。僕はジェネの事が心配なんだ。その身体がちゃんと作られているのかが気になる。もしもその身体が下手な作りで、ジェネが長生きできないのだとしたら……僕は嫌だし。」


「サイ……心配してくれてありがとう。じゃあ早速私を鑑定してみるとするか。」


「じゃあ……鑑定具、起動!」


サイの意見を聞いて納得したジェネは、彼の望む通り自分を鑑定し、今の自分の状態を明るみにする事にした。

サイは掛け声を出して鑑定具に触れ、それを起動させる。彼が右手の平で画面に触れ、手の平を離すと画面の中央に青い線で描かれた魔法陣が出現した。

そして、ジェネを鑑定する為に、サイは椅子から立ち上がって、ジェネを椅子に座らせる。


「その魔法陣に触れて。」


「あぁ。この時代の魔道具は果たしてどんな物なのか……。」


ジェネはそう言いながら魔法陣に右手を翳した。すると、魔法陣がジェネの情報を読み取り、ロード状態に入る。

サイとジェネはどんな結果が見れるのかと待ち望んだ。そして、ロードが終わったその直後に、ジェネの情報が画面に映し出される。


「こ、これは……!」


「これが私の……この身体の情報か……。」


これが、ジェネ・レーナ・ライジンの現在の身体の状態である。


個体名「ジェネ・レーナ・ライジン」

種族名「エクステンドゴレムノイド」


※1 エクステンドゴレムノイドとは、エクストリームコアを核とした人造人間である。

※2 エクストリームコアとは、人の手によって作られた擬似心臓であり、魔力発生装置でもある。


年齢・なし

身長・169cm(正常値)

体重・58kg(正常値)

スリーサイズ・B83・W52・H56(正常値)

視力・右1.2 左1.4(正常値)

心拍数・72(正常値)

精神状態・安定

身体状態・安定

病、怪我・無し


魔力 ∞/∞

魔法

・魔法創造・ブライトアップ・光刃・スリープ・ワープ・サーチ・結界・オーラブラスト・インパクト・シャイニングスラッシュ・ファイヤーショット・ダークファイヤーショット・ストーンショット・ギガロックショット


・サンダーショット・サンダーボルトショット・アクアショット・メガハイドロショット・アイスショット・ブリザードフリーズショット・ウインドショット・ストームエッジショット


・ヒール


注意事項1

注意事項2

注意事項3


「……なんていうか、強すぎない?」


「まぁね。魔導王の名は伊達じゃないって事。それにしても、転生する前の魔法も使えるなんてね。」


サイはジェネの身体情報を見て、改めてその強さを実感した。ジェネはサイの言葉を聞いて鼻を高くしている。


「この魔法創造って魔法……ジェネの好きな魔法を作れるって事なの?」


「そうだよ。私の考えた魔法ならなんでも作れるんだ。凄いだろ?」


「種族はエクステンドゴレムノイドって言うのか……エクストリームコア……最近科学者の人達の手で研究が進められてるって聞いた事があるけど、もう完成していたのか。」


「つまり核を失うか、核が停止すれば私は死ぬという事だね。」


「身長と体重は正常値か、なら良かった。」


「スリーサイズも表記されるなんて便利だねぇ。サイも私のスリーサイズが気になってたんじゃないかい?」


「べ、別に……あとは注意事項か。押せば見れるのかな?」


ジェネのからかいをなんとかスルーしようとしつつ、下に書かれている「注意事項1」を押してみるサイ。

それを押すと、こんな文が画面に現れた。


エクステンドゴレムノイドには生殖機能は無いが、人に近しい身体構造をしているので、その個体の体型が男性型であろうと、女性型であろうと、性行為は可能である。


「…………。」


「……これは大して重要な情報じゃないな。注意事項2に行ってみよう。」


これはまたジェネが食いつきそうな話だな……と、サイは覚悟したが、ジェネは何も言う事無く、次の「注意事項2」を見るようサイに促す。

サイはジェネの様子が何か変な気がすると思ったが、気に留める事はせず注意事項1を閉じて、注意事項2を開いた。


エクステンドゴレムノイドの寿命は健康な状態を維持した場合は100〜120歳である。エクステンドゴレムノイドは老化の際に、毛髪の細胞が死滅する、顔の筋肉が弛むなど、人の老化の際に起こる現象と同じ現象が起こる。


それが注意事項2の内容だった。


「なるほど、並の人間よりも長生きするのか……この時代の人の寿命の80年よりも長く生きれるなんて。」


「運が良ければ君よりも長生きできるという訳だね。」


この世界の医療は未発達だが、魔法によって医療では治せない病も治す事ができる。よってこの世界での人の寿命は約80年程とされている。

サイは、それを知り少し複雑な心境になりつつも、その気持ちを抑えて注意事項3を開く。注意事項3の内容は


エクステンドゴレムノイドの魔力は枯渇する事無く無限に湧き上がる。故に魔法を使う際は、魔法にかける魔力量を多くしすぎると、過度な威力の魔法が出てしまう可能性がある。充分気をつけたし。


というものだった。


「これは気をつけたいな。魔法の威力が強すぎると周囲にも被害をもたらすから気をつけるべきだな。サイにも迷惑をかけたくないし。」


「魔力が無限って羨ましいと思ったけど、デメリットもあるんだね。」


3つの注意事項を読み終え、これでサイはジェネの身体情報を知る事ができたのだった。

ジェネはもっと常人離れした存在だとサイは思っていたし、実際魔力無限や、並外れた寿命、エクストリームコアを核とした人造人間である事など、ジェネは常識を逸脱した存在なのだが、それでも彼はジェネと共に生きていく事を決めた。

彼女を1人にしない為に。前世で魔導王と呼ばれ孤立していた彼女の役に立てればと、サイは考えていた。


「ジェネ……この魔道具のお陰で君の事が色々知れて良かった。これからもよろしくね。」


「あぁ、私こそよろしく頼む。さて、ゴーレム操縦の訓練を始めよう!ゴーレム武闘大会まであと27日だぞ!」


「うん!」


サイはこう思っていた。相手が人造人間だろうとなんだろうと、自分は自分の好きになりたいものを好きになるのだ、と。

魔導王の生まれ変わり、エクステンドゴレムノイド、そんな立場の違いは関係無く、自分はジェネに純粋に向き合いたいと、その日サイは決意した。

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