第41話「訓練開始」

ゴーレム武闘大会まであと28日。サイはその日から、ジェネから強くなる為の訓練を受ける事にした。


「この先、ジェネの力に頼れない状況が来てもおかしくない。だから、ジェネに頼らなくとも、自分の力でゴーレムを操って、勝てるようになりたいんだ。」


「そうか、多少キツい訓練になるが、覚悟はいいかい?」


「もちろん。」


訓練の前に自分が強くなる理由を説明するサイ。ジェネは彼の覚悟を知り、訓練を始める事にする。だがその前に、サイは少し前から気になっていた事があった。


「ところで……ジェネはなんで今まで僕に力を貸してくれたの?いつからかそれが当たり前みたいになってたけど、ジェネが僕に力を貸すメリットなんてあるの?」


サイが疑問を抱いていた事、それは「ジェネが自分に力を貸してくれる理由」だった。

確かに、サイとジェネはつい数ヶ月前に出会ったばかりで、ジェネが見ず知らずの他人に力を貸すのはどうしてなのか、と彼は以前から考えていたのだ。

ジェネは、なんだそんな事か、と思いつつその理由をサイに話した。


「そりゃあ……面白そうだからでしょ。」


「え?」


「私は前世で冒険者だった。冒険者の「冒険」の意味は分かるよね?ズバリ冒険とは!未知とスリルを求める事さ!ゴーレムとなり所有者に仕える……こんな体験「未知の極み」みたいなものじゃないか!私としてはそんな体験ができる人生は楽しいに決まってる!って訳で君に力を貸してきた訳さ。」


ジェネは身振り手振りを交えながら、サイにそう説明した。


「なんて自由な……。」


「それはそうと、君はこんな可愛い子を前にして手を出そうとは思わないのかい?」


「え……?」


ジェネはサイの疑問に答えたかと思うと、今度は自分が彼にそう質問する。


「ほら、私って顔はそこそこ良いし体型はかなり良いと思うから、男なら……ね?」


「な、何言ってるんだよ。それよりも訓練を……。」


「ダメだ。その前に私の質問に答えるんだね。」


早く訓練を始めたいと思っているサイだったが、自分を鍛えてくれるジェネがそう言ってるのなら仕方ないと、彼女の言葉に乗る事にした。


「手を出すって言っても家には父さんも母さんもいるし……。」


「親がいると何か不味いのかい?手を出すというのは、「恋人になる」とか、「付き合う」みたいな意味で言ったんだがね……どうしたサイ、顔が赤いぞ?」


「う……なんでもないよ!」


サイはジェネに揶揄われてしまい、焦る気持ちを抑えて冷静さを保とうとしたが、そうすればジェネの思い通りになる事も理解していた。


「いや〜サイも年頃の男の子だね〜あははっ。」


「ジェネは女の子なんだからさ……もう少し自覚持とうよ。ゴーレムの姿ならなんともないけど……今は女の子なんだからさ。」


「女の子か、そうだね……悪ノリが過ぎた。君の望み通り訓練を始めるから許してくれ。」


「……ならいいけど。」


そうしてその日のサイとジェネの訓練は始まった。ジェネシスタを使ったゴーレムの操縦訓練、これはプチゴーレムとハイゴーレムの大きく開いた性能差をカバーする為に必死で取り組んだ。

次に魔法の訓練。ゴーレム使いが新たな魔法を習得すれば、その魔法はゴーレムも仕えるようになる。サイはこれも怠ること無く真剣に取り組んだ。


最後に、ジェネシスタを強化する為の、ジェネシスタ専用拡張パーツを試行錯誤しながらいくつも製作した。

「機動力の向上」「攻撃の手数の増加」「装甲硬度の強化」様々な課題があり、それら全てをこなさなければプチゴーレムでハイゴーレムに勝つ確率はグンと下がる。

今のジェネシスタには「中の人」がいないから尚更だ。サイは以上の訓練を、学園の登校日は家に帰ったら日が暮れるまで、休日は朝と昼に分けて行う事にした。



「ふぅ……沢山訓練したからか、夕食が身体に染み渡るな……。」


初日の訓練後、サイは夕食をしっかりと噛み締め味わった。その後サイが歯を磨き、リビングで趣味の読書をして部屋に戻ると、自分のベッドでジェネが目を閉じて横になっていた。


「はぁ……まだ寝る時間じゃないけど……寝るの早くない?」


サイはそう考えつつも、ジェネの露出した腕や脚に目を向ける。季節はもう夏なので、ジェネは家では薄着で過ごしている。

そうなれば男であるサイが視線を奪われるのも無理は無い。


「綺麗な肌だな……っていかんいかん……寝てるなら布団をかけてあげないと。ジェネがここで寝てるなら僕はリビングのソファで寝るか。……そもそもジェネは人じゃなく人造人間なんだ……それを変な目で見るなんて……。」


サイは独り言を呟きながら、ジェネに布団を被せる。その時、サイの脳裏にある事が思い浮かぶ。


(そうだ……ジェネは人じゃないんだ。ジェネの寿命ってどれぐらいだろう。僕ら人間と同じぐらい?それより短い?長い?短かったら嫌だな……ジェネが僕よりも先に死んだら……僕はとても悲しむと思うから。


僕より長く生きるとしたら?僕がジェネより先に死んだら……ジェネには悲しんで欲しくないな。僕の事なんか早く忘れて……)


「!!」


その時、サイの思考は遮断され、彼は驚きからか変な声を発した。ジェネがガバッとベッドから起き上がったのだ。


「な、何……?」


「……仮眠を取ってた。」


ジェネは仮眠を取っていたと言う。もうすぐ寝る時間だが、ジェネは前世から、他の人より多く眠らないと満足できないのだ。


「もうすぐ寝る時間なのに?」


「私は睡眠欲は他人より人一倍強いのだよ。それより、君私の顔をじっと見てなかったか?」


「べ、別に……自分の部屋帰りなよ。」


「あぁ、ベットを独占して悪かったね。君のベッドはいい匂いがするから、つい。」


「いや、ちょっとだけならいいよ……別に。」


そうしてジェネは自室に帰っていき、サイはジェネの寝ていたベッドで眠りにつくのだった。その日の晩、自分のベッドから何か安らぎを感じるような香りがするな、とサイは感じた。



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