第37話「2人の帰還」
ジェネシスタを攫った犯人である少年カッパに解放され、元いた街ラハートに戻ってきたサイとジェネシスタ。
ジェネシスタは、カッパにもう何も悪いことをしないよう言い聞かせ、彼を解放する事にする。
「次悪さしたら……どうなるか分かってるよね?」
「は、はい!」
「よし、もう自分の家に帰りたまえ。」
「はい!サイさん、ジェネシスタさん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」
ジェネシスタは自宅へ帰っていくカッパを見送り、サイの方に振り向く。
「という訳で私はこんな姿になった訳だが……これからもよろしくね、サイ。」
「う……うん、よろしく……。」
「どうしたサイ?照れてるのかい?」
「ち、違うよ!」
ジェネシスタに見つめられて、サイは彼女から目を逸らした。
今の彼女の姿は、透き通るような黒髪に宝石のように輝く緑色の瞳、曲線的なボディラインと、まさに容姿端麗と言うべき姿をしており、そんな彼女を前にしたサイが照れるのも無理は無い。
それも先程まで手のひらサイズのゴーレムだった彼女が人の姿で目の前に立っているとなると、サイからすれば困惑してしまうものなのだ。
「そう言えばサイ、君は今日は風邪をひいた母親に代わって買い物をしに来たんじゃないのかい?」
「あ……そうだった。買い物バッグ裏路地に置いてきちゃったな……。」
「私が攫われた場所はここからそう遠くない。一緒に探そう。」
「そうしてくれると助かる。」
サイはジェネシスタの言葉を聞いて自分が今日は母にお使いを頼まれていた事を思い出し、買い物バッグを置いてきた裏路地に向かった。
「確かこの辺の裏路地で……。」
そして、サイがその場所に来ると、そこには買い物バッグと一緒に、サイが遭遇したチンピラもいびきをかいて倒れていた。
「こ、この人は……。」
「知り合いかい?」
「いや……ジェネシスタを追いかけようとしている時に絡まれて……仕方ないから睡眠魔法で眠らせてんだ。」
サイはジェネシスタに男の事をそう説明した。
「なるほど。このまま寝かしておくのが良いだろう。」
「そう……だね。」
ジェネシスタはまたチンピラに絡まれたら厄介だと思い、このまま寝かせておく事を提案した。
サイはそれを了承し、買い物バッグを持ってこの場から立ち去る事にする。
そうしてサイとジェネシスタは無事に家に帰ってくる事ができた。しかし、2人には問題がある。人の姿になったジェネシスタの事だ。
人型になったからにはトループ家の家族が増えるようなものなので、両親にどう説明すれば良いのか……サイは思い悩んだ結果、ある結論に思い至り、帰ってきた直後に寝室で眠るキリマにジェネシスタの事を紹介する。
「浮浪者……?」
「はい。行く宛ても無く彷徨っていた私にサイ君が食事を恵んでくれて……彼とても良い子なんですよ。」
ジェネシスタは行く宛ての無い浮浪者を装い、サイに拾ってもらったとキリマに説明した。これがサイの考えた提案だ。
「母さん、ジェネさんを家に泊める事はできないかな?この人自分の家が無いから色んな人の家を転々としてて、でも何処の家でも「タダ飯食らいめ!」って言われて追い払われて……僕はジェネさんが可哀想だと思ったんだ!だから……」
「……分かったわ。ただし、ジェネさんの家が見つかるまでだからね。」
サイの説得がキリマに通じたのか、母はジェネシスタが……いや、ジェネがこの家に居座る事を許してくれた。
「ありがとうございます!サイ君のママさん!」
「ありがとう母さん!」
そうして、今日からジェネはトループ家の家族の一員となった。その日の夜、仕事から帰ってきた父レイブンにもジェネの事を説明し、父も彼女が家にいる事を許した。
ジェネの部屋は使われてなかった空き部屋になったが、彼女は寝る前にサイの部屋に行き、彼と共に話をする。
「ジェネ・レーナ・ライジン。いい名前だと思うよ。この身体での私の名前、付けてくれてありがとうね。」
「気に入ったのなら良かった。」
「……突然だけど私って15歳ぐらいに見えるかな?」
「見えると思うよ?」
「そうか、なら学校に行くのも悪くないだろうな。」
「ジェネみたいな子が転校してきたら皆驚くだろうな。」
「何故だい?そりゃ私は中身は人造兵器だけど、見た目は普通の女の子だよ?」
「普通か……まぁとにかく、転校するには手続きが必要だから、その時は母さんとやってね。」
「大丈夫、私一人でやれるさ。」
「ならそれに越した事は無いけど……。」
2人の話はしばらく続き、サイの寝る時間が来たのでジェネは彼の部屋を出て自室に戻り、彼女もまたベッドに横になった。
サイは眠りにつく直前で、ジェネを連れて家に帰る道中での事を思い出していた。彼女は突然、自分の本当の名前をサイに明かした。
「サイ、私の本当の名前はレナ・ガブリエルと言うんだ。」
「そ、そうなんだ……どうしたの急に?」
「いや、なんでもない……。」
「そっか……。」
2人の会話は一旦そこで途切れ、家への道をまた歩き始める2人だったが、ジェネは再びサイの名を呼んだ。
「サイ。」
「え?」
「私は冒険者として名を上げた結果、魔導王ロード・ジェネラルと呼ばれるようになり、いつしか私の事を本当の名前で呼ぶ者はいなくなった。君だけでも……たまにでいいから私の名前を呼んで欲しい。私の名前を覚えていて欲しい。」
ジェネはサイにそう願い、彼はジェネの願いを受け入れた。
「うん……分かった。レナ。」
サイにそう呼ばれ、笑みを浮かべたジェネの表情が彼は忘れられなかった。多分、今後しばらくは忘れられないだろう。それほどまでに、彼女の笑顔は眩しかった。
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