第36話「新たなる姿」

サイの声は確かにジェネシスタに届いていた。それによって、悪の手に堕ちそうになっていた彼女は救われたのだ。


「くそ……僕の思い通りにならない物なんていらない!裏切り者め!」


「君、声音と体格からしてサイよりも年下だと思われるが、目上の人にそんな態度とっていいのかい?もう私達に関わらなければ許してやるけど?」


焦るシャドウに対して、ジェネシスタはそう提案するが、相手は引くこと無く敵対の意思を見せる。


「黙れ!お前、ジェネシスタを倒せ!力で屈服させて無理やり従わせてやる!」


「かしこまりました!」


シャドウは従者の男を使ってジェネシスタを無理やり従える事にすると決める。

従者の男はシャドウからの命令を受けると、懐から小さなカプセルを取り出した。

サイが先程見た、モンスターを呼び出すカプセルと似た形の物だ。


「あのカプセルはさっきの……!」


「違うぞ小僧!これはこうやって使うんだよ!」


男はサイにそう返すと、そのカプセルを先程のように地面に放り投げてモンスターを呼び出すのではなく、なんとそれを口の中に放り込んで飲み込んだのだった。


「ぐっ……う……うぉぉぉぉぉ!!」


次の瞬間、男の身体は音を立てながら変化していき、皮膚は紫色に変色し、頭部から2本の角が生え、細身だった身体は、正に筋骨隆々と呼ぶべきものに成り代わり、それはもはや人間と呼べるようなものではない……正にモンスターのような姿へと変貌する。


「どうだジェネシスタ!これが僕の持てる技術の全てを注ぎ込んだ最終兵器、変異モンスター「デスペラス」だ!」


シャドウによって作られたカプセルによって、従者の男は変異モンスター、デスペラスへと変貌し、圧倒的な力を得た。

その威圧的なオーラをサイは恐れたが、ジェネシスタは違った。それを前にしても尚敵の前に立ちはだかるジェネシスタは、自分が敵を倒すとサイに言う。


「サイ、ここは私に任せろ。」


「……頼んだ。」


「グォォォォォォォォォオ!!」


デスペラスは雄叫びをあげ、ジェネシスタに向かっていく。

それでも彼女は敵に怯えること無く冷静に魔法を発動した。


「ヘルフレイムブラスター!!」


ジェネシスタが魔法の名前を唱えると、彼女の手の平に紫色とオレンジ色の光を纏う火の玉が形成され、彼女はそれをデスペラス目掛けて勢いよく打ち放つ。


「グォォォ!!」


ジェネシスタの放った魔法はデスペラスの腹部に直撃し、彼は苦痛の声をあげながら壁に叩きつけられ、許容量を超えるダメージを受けた事で変身は解除され、従者は元の姿に戻った。


「な……一撃で……!!」


「凄い……さすがジェネシスタだ。」


「少年、君がこの身体の魔法の威力をここまで上げてくれたお陰だよ。ありがとね。」


驚くシャドウとサイと、シャドウにそう返すジェネシスタ。このままでは自分も……そう悟ったシャドウは即座にその場からの撤退を選択する。


「ま……まずい!逃げなきゃ!」


彼は急いで通路の方へと走ったが、それを逃がすまいと、ジェネシスタは瞬間移動魔法、ワープを使い、シャドウの行く手を阻むように立ち塞がる。


「ひぃ!!」


「はい君、名前と通ってる学校は?」


「言うもんか!」


「じゃあ直接見るよ。」


「え?……すぅ……。」


自分の素性を明かす訳にはいかないと言うシャドウだったが、彼はジェネシスタの睡眠魔法、スリープによって眠らされてしまう。

そして彼女は、その隙に相手の情報を覗き見る事が可能な魔法、サーチによってシャドウの情報を読み取った。


「ふむふむ……名前はカッパ・スコット。13歳。現住所は王国サーラル ラハート 北区(ラハートは街の名前)120年前から続く貴族の長男、か。」


「スコット家……僕が住んでる街では有名な貴族だ。まさか貴族の子がこんな事件を起こすなんて……君が動いていない間に彼は「この国を戦争から守る為にジェネライザンを作った」って言ってたけど、そんな事考える子供がいるなんて……生まれつき知能が高い……あのー……ギフテッドって人なのかな。」


「なら彼に直接聞いてみよう。念の為バインドで拘束して……状態異常解除。」


シャドウ……いや、カッパの素性は知れたが、彼自身の口から色々聞いた方が早いと思ったジェネシスタは、彼が逃げないように拘束魔法を施した後、状態異常を解除する魔法で睡眠状態のカッパを目覚めさせた。


「はっ!何が起こった!?」


「おはようカッパ・スコット君。」


「くっ……名前がバレてしまったからには仕方ない……僕はスコット家の長男!ここで捕まる訳にはいかないんだ!」


目が覚めた途端威勢を張るカッパだったが、大人のジェネシスタにとっては子供の言うことだと聞き流していた。


「君がやった事はプチゴーレムの窃盗、違法薬物の使用、そして個人で扱ってはいけない程の規格外の兵器の作成、以上の3つだ。」


ジェネシスタからそう言われるカッパだったが、それでも彼は自分の意見を貫き通そうとする。


「っ……僕は天才なんだ。僕は13歳でありながら知能指数は他のガキよりも遥かに高い!歴史上の天才科学者達と同等の知能を持っていると言っても過言では無いんだ!そんなギフトを持って生まれたからには、僕にしかできない事をやろうと決めた!僕はこの国を愛している。戦争なんかでこの国が地獄に変わるのは嫌だ。


だから僕はジェネライザンを作ろうとした!覚悟しろよジェネシスタ!さっきの指輪をまた作ればそれを使ってお前を僕の手中に収めることができるんだからな!その時は僕がこの国を救う英雄となる!だから……」


自分がジェネライザンを作った理由を再び饒舌になって語るカッパだったが、彼はジェネシスタの瞳を見て射すくめられた。

そしてジェネシスタはカッパにこう言う。


「少年……国同士のゴタゴタはね、子供が知らない内に大人がなんとかしてくれるものなのさ。だからそういう事は大人に任せて、君は学校の勉強でもしてな。」


「は……はい……。」


「頭がいいなら、もうこんな事やったって無駄だと分かる脳も持ち合わせているだろう?もうやらないとここで誓えるなら私達は君を見逃そう。」


「……はい、はい!もう二度としません!もう人からゴーレム盗みませんし、違法薬物使いませんし、トンデモ兵器も作りません!」


冷徹な瞳で自分を見るジェネシスタに恐怖を覚えたカッパは、すぐさま彼女にもうこんな事はやらないと誓った。

彼の誓いを聞いたジェネシスタは、彼に笑顔を向ける。


「よし、君の母親にこの事を言おうとしたが、それも止めた。早く我々をここから出したまえ。」


「はい!今すぐに!」


そうして、サイとジェネシスタはその薄暗い空間ならようやく出る事ができた。

カッパの魔法、ワープゲートでその空間から外に出ると、眩しい太陽の光が彼らが無事帰還した事を祝福してくれたようだった。

ジェネシスタの身体は新たな姿に変貌したが、いずれその身体にも慣れる時が来るだろう。

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