第35話「創世の星、覚醒」
ロード・ジェネラル……本名、レナ・ガブリエル。
彼女が生まれた家庭はとても裕福な環境とは言えず、両親は2人揃って採石場で過酷な肉体労働に勤しんでいた。
だがレナが5歳の頃、不慮の事故で両親は命を落とし、レナは路頭に迷う事になる。
行く宛ても無く彷徨っていた彼女を救ったのは、1人の女性だった。
レナは彼女に救われ、12歳まですくすくと元気に育ったが、レナを救った女性もまた、不慮の事故で亡くなってしまった。
産みの親も育ての親も失ったレナは、強くなることを決めた。例え1人でも生きていける程に強なると、亡くなった3人の親に誓った。
育ての親は冒険者をしていたので、レナ自身も冒険者になる事にした。
6年の間、周りの冒険者の荷物持ちをしながらその傍らで魔法の鍛錬を積み、18歳になった時には1人で冒険者活動をできるようになっていた。
それからレナは僅か3年で特級冒険者にまで上り詰め、周りの冒険者達は彼女の事を敬意を込めて「天才魔術師」と呼んでいた。
しかし、レナは孤独だった。周りの人間には家族、友人、恋人がいるが、彼女には何もいない。
レナは、自分の孤独を、心に空いた穴を埋める為にゴーレムを作った。
だがゴーレムは戦闘の役には立つが、話し相手にすることはできず、彼女は余計に虚しくなった。
彼女を尊敬していた周りの冒険者は、いつからか彼女の事を「ゴーレムだけが相棒の可哀想な奴」と認識するようになっており、レナはそれがとても悔しかった。
友達を作ろうともしたが、コミュニケーションが苦手な彼女に友達を作る事はできなかった。
レナは20歳の頃、世界を滅ぼすと言われている伝説のモンスター、アポカリプス・ゼノンをたった一人で討伐した。
これにより、圧倒的な力を持つレナの事を周りの人間は「魔導王ロード・ジェネラル」と呼び恐れ慄いた。
彼女は望まずして、周囲との溝を広げてしまったのだ。
レナは26歳の頃、モンスターとの戦いの最中、隙を突かれて致命の一撃を腹に受けた。
厄介な事に、そのモンスターの角の先端からは、回復魔法の効果を無効化させる液体が分泌されており、レナはその角で腹部を1突きにされたのだ。
彼女が回復魔法を腹に施そうとしても血が止まらない。
死を悟ったレナ。自分の人生はなんと惨めなものだったか。大切な人を失い、それを作る事すら許されず……最後に待っていたのは人知れず息絶えるという結末。
死にたくない……そう思った瞬間、彼女の脳裏に走馬灯のようにある記憶が思い浮かんだ。転生魔法である。
彼女は以前読んだ本で見た魔法の詠唱を開始し、息絶える直前でなんとかそれを完了させた。
その瞬間、転生魔法が発動し、彼女の魂は200年後に転生する事となった。
それから200年後、レナが目を覚ますと、彼女は15センチ程のサイズのゴーレムになっていた。
叩けばコンコンと音が鳴る鉱物の身体。そして傍には、そのゴーレムを作った少年がいた。
レナは転生によって、長年欲しくて堪らなかった物を手に入れるかもしれない、そう確信したのだ……。
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……サイの声がする……そうだ……サイだ。私の友達だ。彼が呼んでいる……そうか、そこに行ってはダメなのか。分かった。君がそう言うなら私は……。
だが……魂が持っていかれる……すまないサイ……この身体が言う事を聞かないようだ。私だってそこに戻りたいさ。だけど……どうやら私は、大切な者を失い続ける星の元に生まれたらしい。あぁ……残念だ……私はまた……大切な者を失って……
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その瞬間、ジェネシスタの身体から発せられる魔力は全てガラスケースの中のジェネライザンに吸い取られ、ジェネシスタの身体は地面にぽとりと落下した。サイは、ジェネシスタの死を悟り、膝をつく。
「ジェネシスタ……!」
「残念だったね。彼女の魂は今、ジェネライザンの中に取り込まれた!そして彼女は、この指輪を持つ僕の下僕となる!さぁ、起動しろ!」
シャドウが声高らかにジェネライザンの起動の合図を告げると、ガラスケースが割れ、中の謎の液体と共にジェネライザンの身体が外に排出される。
服を着ておらず、裸の状態のジェネライザンだったが、魔法によって衣服を身に纏い、これで完全な状態に変化した。
瞳を見開き、辺りを確認するジェネライザンに、シャドウは最初の命令を下す。
「美しい……我が国の守護神ジェネライザンよ!準備運動だ!手始めにその男を痛めつけろ!」
シャドウの言葉を聞いた彼女は、ゆっくりとサイの元に歩いていき、彼は膝をつきながらジェネライザンを見上げて必死に声を掛けた。
「ジェネシスタ!!僕だ!!サイだ!!君を大切に思っている人だ!!」
「ははは!無駄だよ!彼女はもうジェネシスタでは無い!新たな人格に生まれ変わったんだよ!その名もジェネライ……」
サイの呼びかけを嘲笑い、彼を指さすシャドウ。そんな彼の薬指に嵌められた指輪は突然音を立てて砕かれた。
彼がジェネライザンと呼ぶものの指先から発射されたレーザー光線によって。
「は?」
「へ?」
シャドウとその従者は困惑した。しかし、指輪を破壊したのがジェネライザン本人だと理解した瞬間、困惑はさらなる困惑を招いた。
「バカな……人格は書き換えられてるはず……お前は……なんで……!!」
「この身体になった瞬間、私は自分が自分じゃなくなっていくような感覚に襲われた。しかし……サイの必死の呼びかけによって、なんとか自我を保つ事ができたのさ。」
シャドウの疑問にそう返すジェネライザン……いや、ジェネシスタは、サイの方に振り向き、彼に笑顔を向ける。
今までゴーレムだったジェネシスタだったが、ここで初めて、彼に本当の笑顔を見せる事になる。
「やぁサイ。君の望み通り、私は帰ってきたよ。」
「ジェネシスタ……届いてたんだ……僕の声……!」
彼女は、新たな姿となってサイの前に立つ。彼はその喜びを、嬉し涙を流しながら噛み締めた……。
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