第33話「人造人形ジェネライザン」
ジェネシスタは、突如として謎の男に攫われた。
街の裏路地へと足を踏み入れたサイはその男を追いかける。
サイは運動神経は15歳の少年の平均的なレベルだが、ジェネシスタを攫った男の走る速度は速く、サイの足ではついて行くのが精一杯だった。
そして、細い裏路地に入っていった男をサイが追いかけていくと、そこにいた男は、壁に現れた黒い渦の中へと入っていった。
「あれは……ワープゲート……!?」
サイはそれを学園の授業で教えてもらった事がある。
これはワープゲートという魔法で、ある場所から遠くの場所へ移動する為の魔法だ。
彼はそれを前にして、このワープゲートの向こうがどうなっているか分からない以上、入るのは危険だと感じたが、ジェネシスタの身の危険を考え、恐れを噛み殺してワープゲートの中へと入っていった。
ワープゲートは発動者の任意のタイミングで解除する事ができ、人がそれを潜っている途中で解除されると、身体がより出ている方に押し出されるようになっている。
サイが身体の殆どをワープゲートの向こう側に通過させた時、その魔法は解除され、サイの街の方にあった彼の左足は謎の場所の側へ押し出された。
「ここは……?」
ワープゲートを通り抜けたサイが辺りを見渡すと、そこは不気味な紫色の灯りが灯された細い通路だった。
そして、その向こうへ走っていく先程の男の姿をサイは確認し、それを追って再び走り出した。
どんな場所か、何が潜んでいるかも分からない空間を徒に駆け回る事が危険だと言うのは彼も承知の上だったが、それでもジェネシスタを助ける為に彼は走った。
「待て……っ!」
「しつけぇぞ!」
サイに追われ続ける男は、痺れを切らしついにサイに攻撃を仕掛けてくる。
彼は懐から小さなカプセルを取り出し、それを地面に放り投げた。
するとその中から、なんとモンスターが現れたのだ。
「!?」
サイはそれを見て驚いた。
あんな小さなカプセルからモンスターが出てくるなんてどんな技術なんだと思ったが、それよりもカプセルから出てきたモンスターそのものがサイを戦慄させた。
「これは……キメラ……!?」
「グォォォォォォォォォ!!」
そのモンスターは、身体はライオンで、背部から山羊の頭が生えており、尻尾は蛇の形をしているモンスター、キメラだった。
このモンスターは、モンスターの中でもかなり強力な部類に入れられており、並の冒険者では手も足も出ないと言われている。
「どうする……こんなモンスター僕じゃ勝てない……でもここで足止めを受けてはいられないし……なら!!」
このキメラには自分では勝てない、そう即座に察したサイは、モンスターと戦わずに逃げる事に決めた。
「スパーク!!」
サイは目を左腕で覆いながら、目くらましの魔法、スパークを右手で放った。
サイの右手から眩い光が発せられ、周りが暗いのも相まってキメラの目潰しに成功した。
その隙にキメラの脇を通り抜けて先に行こうとするサイ。
「今だ!!」
「グォォ!!」
サイはなんとかキメラとの戦いを避ける事に成功する。
しかし、自分の傍を通り抜けようとするサイの気配をキメラは察知し、前足の鋭い爪でサイを攻撃した。
だが、幸いにもかすり傷で済んだサイは、怪我の事など気にする間もなく男が向かった方へと走っていった。
「足が……でも切り抜けた!早くしないと……敵がジェネシスタをどうするつもりなのかは分からない……けど、早くしないと何が起こるか分からない!」
サイは必死で走り続け、ついに通路の奥の方に光が灯る部屋があるのを確認した。
「灯りが……そこにいるのか、ジェネシスタ!」
そこに行けば犯人の目的も、ジェネシスタがどうなるのかも分かるかもしれないと考えたサイは、ついにその部屋へと突入した。
「ジェネ……!?」
即座に彼女の名前を呼ぼうとしたサイだったが、目の前に飛び込んできた景色に声を出せなかった。
その部屋の中央には、液体の入った大きな円柱状のガラスケースが立っていた。
そして、その中には人の姿が……サイと同じぐらいの歳に見える裸の女性が、眠るようにしてガラスケースの中に閉じ込められていた。
「これは……この人は……?」
「追いついてきやがったか……ガキが……!」
その部屋の中にはサイが必死で追いかけていた謎の男もいた。
彼は誰なのか、目的は何なのか、ジェネシスタをどうするつもりなのか、全てを問いただす為にサイは息を整えて声を発した。
「お前の目的は何だ!ジェネシスタを返せ!」
「断る!これは主が求めてやまない物だ!」
「これ?物?ジェネシスタはものじゃない!見た目はゴーレムだけど、彼女には心がある!誰かが自分の都合でどうにかしていい人じゃ……!!」
ジェネシスタの事を物扱いする男の考えを否定しようとするサイだったが、彼は自分が来た通路とは違う、もう1つの通路の奥から誰かが来る気配を察知する。
「よく言うよ、君だって彼女を物として扱ってきたくせに。」
そこに現れたのは、身長が低く、少年のような声の、仮面を被った男だった。
「君は……?」
「そうだな、名乗るとすれば……影に潜む餓狼……シャドウ・ファング。」
仮面の男は、名をシャドウ・ファングと名乗った。
彼がこの件の首謀者と見たサイは、彼に目的を問いただそうとした。
「ジェネシスタを攫ってどうするつもりだ!?」
「彼女は圧倒的な力を秘めている。その力を……兵器として利用させてもらうのさ。」
「兵器……?」
「そうさ。たった一つで国を滅ぼす事ができる兵器。君はこの国、サーラルがどういう状況にあるか分かってるのかい?東の王国レクスダム、西の王国カイザダム、その中央にこの国は位置しているが……両国は今冷戦状態だそうな。いつ本格的な戦争になってもおかしくない2つの国……そしてそうなった場合、2国の間に位置するこの国はその戦争に巻き込まれる可能性が高い……この国には自衛の術が必要なのだ。そして!天才である僕は最強の兵器を作り出した!それがそこにある兵器……ジェネライザンだ!!」
「ジェネ……ライザン……!?」
シャドウは、ガラスケースの中の人形を指さして声高らかにその名を呼んだ。
先程まで、ガラスケースの中のそれを人間だと思っていたサイ、しかしその実、それはシャドウによって作られた脅威の人形兵器、ジェネライザンだったのだ。
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